アナロジーの市川(@analogy_ichitk)です。
業界で長いこと仕事しているとよく聞くこのワードについて考えてみます。
目次
仕事のやりがい搾取とは?
まずざっと自分の中での言葉の定義についてまとめます。
●仕事のやりがい
自分が従事した仕事に対して、以下のような満足感を得られること。
- 心の底から楽しむ気持ち
- 達成感
- 満足感
- 充実感
●やりがい搾取
企業が労働者に対して「仕事のやりがい」を悪用することによって、不当に以下のような行為を強要すること。
- 低賃金労働
- 長時間労働
- 劣悪な環境下での労働
●やりがい搾取の具体例
- 割増賃金を支払わない
- 最低賃金を下回る
- 有給を取得できない
●やりがい搾取が起こる原因
- ブラック企業の横行
- 労働環境の問題
- ワーカホリックの問題
- 価値観のミスマッチ
●やりがい搾取が起こりやすい企業や職場の特徴
- 「好きだから働く」という人が多い
- 自己評価の低い人が多い
- 成果主義
(参考)https://www.kaonavi.jp/dictionary/challenging-exploitation/
いろいろな記事や事例を見たのですが、自分なりの解釈と照らし合わせてこの整理が一番しっくり来たのでほぼ引用させてもらいました。詳しく読みたい方はご覧ください(外部サイト)。
ではこの定義をもとにブライダル業界の就労の現状を鑑みて、やりがい搾取なのかどうかを考えてみます。
結婚式の仕事はやりがい搾取なのか?
以前に比べればかなりよくはなったものの、
- 低賃金(残業代未払、土日の有給取得不可など含む)
- 長時間労働(特に週末)
- 時代遅れのアナログな労働環境(これは多くの人が自覚してないけど)
- 「結婚式が好きだから働いている」人が多い(各社の採用方針にも紐づく)
- どこまででも頑張れるのでワーカホリックも多い
結婚式に関わる職場ではこんな労働環境のところも少なくないと思います。
先ほどの定義に当てはめれば、やりがい搾取と言われる状態となってしまっているところもあるでしょう。
仕事に対してやりがいと誇りを持っている人は多いも一方で、長時間労働と低賃金が常態化してしまっていることは業界課題と言えます。なのでこのようなやりがい搾取になりやすい環境・状態をどうやったら改善できるかを考えていきたいわけです。
仕事にやりがいを感じつつ、それなりの給与を人間らしい労働時間で実現すること、これを理想の状態としたときに何をどのようにしていけばよいのか?
答えは「労働時間を短くして給与アップしたら解決する」というシンプルなものなんですが、もし今のままそれを実現してしまうと多くの企業が倒産するでしょう。人件費コストの増加に経営が耐えられません。
なので、企業側が悪意を持ってブライダル従事者のやりがいを利用して搾取してやろうとしているわけではなく(中にはそういう企業もあるかもだけど)、業界構造的な背景を踏まえて考えていかなければいけません。
どういう状態だとやりがい搾取なのかを考える
具体的な施策を考える前に、ちょっとケーススタディを置いてみます。
●ケース1
年間240施行を行っていて以下のようなプランナー人員計画のA~Dの4社があったときに、もしあなたがプランナーだったらどこで働きたいと思うだろう?
- A社:年収250万円の打合せプランナー4人、1人当たり5組/月
- B社:年収250万円の打合せプランナー8人、1人当たり2.5組/月
- C社:年収500万円の打合せプランナー4人、1人当たり5組/月
- D社:年収500万円の打合せプランナー8人、1人当たり2.5組/月、ただし全てのお客様にプロデュースフィーとして別途30万円を請求している(A社、B社、C社は0円)
●ケース2
70名12卓の施行に対して以下のようなサービス配置を行うA~Dの4社があったときに、もしあなたがサービスだったらどこで働きたいと思うだろう?
- A社:年収250万円のサービス5人、2.4卓担当/人
- B社:年収250万円のサービス10人、1.2卓担当/人
- C社:年収500万円のサービス5人、2.4卓担当/人
- D社:年収500万円のサービス10人、1.2卓担当/人、ただしサービス料はFB+会場費の30%(A社、B社、C社は10%)
設定に無理があることは承知の上ですが、どうでしょう?従事者満足度、顧客満足度、企業経営の観点でちょっと考えてみてほしいです。
状態別にやりがい搾取に当たるのかを考察
いずれのケースでも、A社はしんどいですよね。低賃金だし、労働負荷も高い。顧客満足度も高くなる理由がない。
BとCは人件費は同じでそれをどのように割り振るかの違いです。
- Bは労働負担は比較的抑えられるし顧客に向き合う時間も取りやすいが給与は低い
- Cは労働負担は大きく、向き合うというよりは捌く感じで顧客と対するが給与は高い
顧客満足度はどうでしょう?個人的には、配置人員充実度という観点からBの方が高そうで、年収250万円の人材と500万円の人材にそこを埋めるだけの差はないことの方が多そうです。
Dは労働負担は比較的抑えられるし顧客と向き合る余裕も取りやすく、かつ給与も高い。しかし見積りも高いので顧客からすると結婚式そのものの満足度はともかく金銭的負担は大きい。
***
ざっと出題意図としてはこんな感じで、どこを目指していくことがよいのでしょうか?という心理テストみたいなものです。
まず今回のテーマである「やりがい搾取」という観点では、Aは当てはまると思うんですよ。これはいいですよね。
で、BとCはけっこう人によっては微妙だと思ってて、働くうえで何を大事にしているかによって判断変わりそうだなと思ってます。
お金稼ぎたい人はCの方がいいってなるでしょうし、そんなにお金にこだわりない人はBの方がしっかりお客様に向き合えていいってなるでしょうし。
最後にDはそりゃそうなったらいいよねーってなるけど、現実には経営や集客的に難しい方法です。ちなみに今回のケースでは顧客からその財源をもらうとしましたが、他のコストをカットすることで財源をねん出しても理論的にはOKです。
やりがいと労働環境・条件はバランスが大事
ここまで書いてきた自分の考えをまとめると、「やりがいと報酬や環境などの労働条件のバランスをどこで最適と感じるかは人それぞれ」なので、誰かが一義的に決めるものではないものの、明らかに低賃金かつ高負荷労働を前提とした職場は淘汰されていってほしい、となります。
さらに言えば、適切な負担で深く顧客と向き合いつつ報酬リターンも高く得られる状態を作ることができるとより理想的であり、それを実現するためには時間単価を上げて報酬財源を作ることも目指していかなければいけないと考えています。
じゃあどうやって目指すのか?って話なんですが、結婚式の価値をお金に換える視点を持つことなんじゃないかなぁと思うんですよね。
てか財源を作らないとどうやったって給料上がらないですから、いつまでたっても「やりがい搾取だろ」と言われ続ける業界になってしまいそう。
- やりがいのある仕事であることは間違いない
- やりがいを感じるのは顧客に価値を提供しているから
- 顧客は価値を感じるからその分の対価を支払ってくれる
- その対価が従事者に還元されることで報酬面でも満たされる
- やりがいと報酬の両立
こんなストーリーを作らなければいけない。いろいろな話を聞きますが、やはり新卒から5年働いて手取り20万円未満はさすがにきついですよね。
それが理由で辞めていく人も少なくないし、何とかしたいところです。
ブライダル業界の仕事はやりがい搾取なのかについてまとめ
- 現状はやりがい搾取と言われても仕方ない部分もある
- 理由は低賃金、高負荷労働、前時代的な労働環境であるため
- ただし人によって居心地のいいバランスは異なるので一概に他人が決めることでもない
- マクロな視点でこの課題を解決するためには結婚式の価値をお金に換えることが必要
ざっとまとめるとこんな感じです。
業界といっても様々な価値観がありますし正解は1つではないですが、全体的な改善に向かっていくことを願います。