更新日 2017年05月25日

結婚式場の新規出店の運営で失敗しないための知識【後編】

結婚式場の外観

前回の記事の後編です。結婚式場の新規出店の計画を立てる際に重要なポイントは

  1. 基本となる年次PLを正確につくること
  2. PLをもとに投資回収計画に落とし込むこと
  3. 意思決定基準の目線をそろえること

この3つだと言えます。今回は2と3について書きますが、1で書いた年次のPLをベースに投資計画、意思決定基準について書いていきますので、こちらの記事から入られた方はまず前回の記事をご覧になることをオススメいたします。

投資回収計画のつくりかた

基本となる年次PLができたら、それを元に投資回収計画を作ります。手順は以下の通りです。

  1. 年次PLを10年分作る
  2. 投資額と回収額・期間の予測を立てる
  3. 変動要素を洗い出す

年次PLを10年分作る

10年分の年次PL
年次PLを作成したのと同じ要領で、2019年以降残り9年分のPLも同じフォーマットで作成します。年度ごとに変動する要素はマーケットサイズです。これは外的要因による影響が大きく、自社の努力では到底どうにもできないからです。一方、内部要因の影響が大きい、成約率や組単価、原価率などのKPIは、基本的に年次ごとに変えないほうが無難だと思います。よくある話としては、毎年プランナー研修をしっかり行うから成約率は1%ずつ上がるとか、仕入れ業者と発注ロットのサイズによって契約条件変わるから原価率を●%下げるとかを織り込んで数字作るケースがあると思うのですが、これ危険だと思います。その見込みと同じくらいの確率で、エースだったプランナーが退職してしまう、とか取引業者が値上げを言ってくるとか起こるので、よっぽど確定的なものでない限り据え置きで計算したほうがよいでしょう。

10年分のPLのサマリを作る

10年分のPLのサマリー
10年分のシートを作成したら、その年間の合計数値を1枚のシートにまとめます。上の表のD列の数値をただ引っ張ってきているだけです。コピペでもいいですが、数式でつないでおくと後々便利です。例えばD5セルであれば「=’2018′!$D5」となるので、そのまま下に数式をコピペしていけば数値が入ります。それを2027年の列まで数式をペーストし、2018を2019、2020と置換していくとシートは手早く作ることができると思います。

投資額と回収額・期間の予測を立てる

投資回収計画と累計ROI
サマリのシートの営業利益の下に、営業利益+原価償却(キャッシュとして毎年入ってくる金額)、投資額、回収額-投資額、ROIの欄を追加します。前者2つは単年と累計、後者2つは累計の数値を出しています。この数値から投資回収は開業5年目に達成される見込みで、10年間シミュレート通りに運営されれば、ROIは192%になります。いい条件です(笑)
※ちなみに、本来の営業キャッシュフローの計算式はこんなに単純ではありませんし、実際に企業内でシミュレートをする場合はもう少しここのところを精緻に行うべきです。今回はどうやって考えていったらいいかよくわからない、という方に概念的な話をお伝えすることを目的としていますので単純化して書いています。

リスク要素、投資回収へのインパクトを洗い出す

全快の記事を含めてここまで書いてきたようにひとつひとつのKPIを仮説を持ってシミュレートし、それを積み重ねて数字を並べると不思議なもので「なんかいけそう」な気になってしまいます。ただ、これですぐに意思決定をする、よりも前に、各KPIが当初想定とどれくらいずれたらどうなるかを洗い出しておき、この投資にどれくらいのリスクがあるのかを把握しておくことも必要です。またここで考えたことは、仮に実際に案件が決まって投資をし運営が開始された後の施策の引き出しとしても生かすことができます。可能であれば、後に式場の責任者となる人間とも握っておくことで運営目標にコミットできるようになるというメリットもあります。

ケース①:同エリアに競合の大規模店舗の出店が決まって、会場の強み係数が0.1下がったら・・・

投資回収計画-ケース1
シミュレートはこのようになり、投資回収は7年目、10年目の累計ROIは133%の予測なります。だいぶ下がりましたね。こうなると結構慎重な判断が必要になるので投資意思決定のぎりぎりのタイミングまで、競合の情報はチェックしておかなければなりません(当たり前ですが)。

ケース②:直近の実績トレンドから成約率を保守的に35%と考えたら・・・

投資回収計画ーケース2
シミュレートはこのようになり、投資回収は7年目、10年目の累計ROIは125%の予測なります。投資のタイミングの年度の成約率が35%で前年の実績が40%だった、こういうケースではどちらの数字を入れるかで数字がかなり変わってくるので、2パターンで検証しておくといいでしょう。

ケース③:①と②が同時に起こると・・・

投資回収計画-ケース3
10年では回収できません。。。というよりも100%まだ回収できなさそうです。もしこのシミュレートを会社として正とするのであれば投資しないほうがいいですね。
他にも考えうるケースは無数にありますが、ある程度の粒度で洗い出して関係者で認識の統一が図れていれば大丈夫です。ここまで作ってきたようなエクセルのシートであれば係数を変化させたときに売上、ROIなどへの反映が簡単なので一度フォーマットを作ってしまうことをオススメします。

意思決定の判断基準の目線のそろえ方

ここまでシミュレートについて書いてきました。

  • 予測通りの結果となるとどれくらいのシミュレートになるのか
  • 不測の事態が起こるとどうなるのか

ケースごとに数パターン(この記事内では3パターン)のシミュレートが出来上がっているかと思います。最後は、「何を基準にして」このシミュレートをもとに投資するかどうかを決めていくかについてです。ブライダルの場合、一度出店をする!と意思決定すると、そこから先少なくとも数年掛けてその投資回収を見ていくことになりますので、それ相応の覚悟が必要です。そのため、意思決定者のみならず(だいたいの場合は社長か事業本部長などが行うことになると思いますが)、支配人、マーケティング、管理本部、など多くの関係者でコンセンサスをとっておくことが重要です。1つの物件に対する議論のたび、もしくは出てくる物件のたびに毎回変わると精度の高い意思決定ができないだけではなく、納得感もコミットメントも生まれにくくなってしまいます。だから基準をきちんと決めておくことが大切です。
考えられる意思決定基準としては、

  • 売上が●●億円以上
  • 営業利益額が●●円以上
  • 営業利益率が10%以上
  • 投資回収期間が5年以内
  • 鶴の一声(あってはいけませんが、実際はあるでしょう)

といった例が挙げられます。
ブライダルの出店するかどうかの判断基準はこれにすべき!というわけではありません。上の基準であればどれを一番重要視するかは、会社のフェーズによっても変わりますし、上場か非上場かによっても変わりますし、中期経営計画の目標値によっても変わることでしょう。どの基準でもいいと思います(個人的には売上を基準にするのはとっても危険だと思いますが)。
大切なのは、何を基準に決めるか、となぜその基準なのかを関係者で理解していること。しつこいですがそれくらい大事なので、関わる人は納得するまで社内の会議などで議論されたほうがよいです。一点の曇りもなく、みなが同じ方向を向いて立ち上げに向かっていく、究極的にはこれが新規出店の成功の秘訣かもしれませんね。

まとめ

いかがでしたか?
2回にわたって新規出店を失敗しないためのポイントをまとめました。これから先2020年に向けて建設費が高騰していることもあり、結婚式場の新規出店は過去数年間に比べるとある程度落ち着くかもしれません(もともと圧倒的に供給過多であるという環境もあるし)。
ただ、新規出店にしろ、居抜き案件でも、事業譲渡でも、MAでも、結婚式場を運営したときにどれくらいの投資回収が見込めるのかをきちんと予測する、ということは非常に重要なことですし、どの規模の会社であっても経営に一定のインパクトは与えますので、この記事が少しでも参考になっていただけるとうれしいです。
 
おわり

この記事を書いた人

市川 貴之

株式会社アナロジー代表。「ブライダル3.0を実現する」をミッションに掲げ、ブライダル事業者向けマーケ支援、ブライダル特化の人材紹介、Leju(フリープランナープラットフォーム)を運営しています。マーケティング、事業企画が得意。

CATEGORY同じカテゴリーの記事