アナロジーの市川(@analogy_ichitk)です。
お客様への付加価値を高めよう!という会話のシーンは日常の業務の中でも多いでしょう。単価アップについて議論するとき、新規のセールスのトークを考えている時、新規事業を企画しているとき、などなど。でもそれって、本当にユーザーへの付加価値でしょうか?私個人としては、こういった会話や議論に参加させていただくときにふと違和感を感じることが少なくありません。そこで、今回の記事では「結婚式の付加価値とは何か?」について考えまとめます。
目次
これは新郎新婦にとっての付加価値か?
社内でよく議論される商品造成や新商品開発の例
- コース料理の内容をプリフィックスで選ぶことができる
- 仕入れ原価の高い食材を使ってコース料理を作る
- オーダーメイドの料理を作ることができる
- 二人のこれまでの人生から紡がれるオーダーメイドのコンセプトメイキングをする
- お花のボリュームがアップする
- 担当するフォトグラファーが選べる
- 階段入場ができる
- 打合せの回数を通常よりも2回多くする
- ドレスのメンテナンスにかける人的リソースを増やす
- 当日エンドロールがお色直し前まで入る
上記のような例が付加価値と言えるかどうかは人によります。
思いつくのはまだまだあるのですが長くなりそうなので10個だけ挙げてみましたが、これらの内容をいいな!と思う人もいれば、そうでない人もいると思います。フラットに見ればそれはそうだと感じる方も多いと思うのですが、これが社内の商品造成や新規事業開発の議論の場になると「これは付加価値がアップするのである」という認識が全員の前提となって話が進んでいることが非常に多くなります(と私は感じています)。
この商品やサービスに価値を感じるかどうかは人それぞれであり、本来であればどういう人がそれに対して価値を感じるかもセットで考えなければいけないので、「結婚式場がコストやリソースをかける=お客様にとっての付加価値が向上する」ありきの発想って、それは違うんじゃない?と感じたのが今回の記事を書こうと思ったきっかけです。
商品の差別化とユーザーへの付加価値
それが本当にユーザーにとって価値かあるのかどうかをよく議論しないまま、新商品はこれまでとこのようなところが違うから(今までにないから)価値が上がるのである、という考えありきで新商品・新サービスが決まる→そのあとにセールストークを考える、このような順番で決まっていることの方が多いと思います。
多くの方とお話しさせていただく機会があるのですが、比較的若手のメンバーでも「差別化」という言葉はよく知っています。ただ、「差別化」ってただ他と違うかどうかという話だけではなく、それが価値があるか、もっと言うとほしいと思われるかどうかまで含めて考えなければいけません。
そこの視点が抜けてしまっていて、ただこれまでにないものや違うものを商品として開発してしまうと、確かに他にはないけど誰も欲しがらない商品が生み出されてしまいます。そうなると商品開発後は、
- 「これだけコストをかけて新商品を投入してユーザーへの付加価値も高い、しかも他社もやっていないのになぜ売れないんだ!?」
- 「わ、わかりました!どうしても売らなきゃ…」
という流れに進んでいき、結果的に「費用が安い」という強力なユーザーへの価値に落ち着いてしまう。これが価格競争から抜け出せない理由です。こういった話って、ブライダルに限った話ではないのですが、これってけっこう考え方レベルでの課題なんじゃないかなと思います。
もちろん、
「そんなきれいごとばかり考えてたんじゃ経営なんてできないよ!売らなきゃいけないんだよ!」
こういう意見もあるでしょう。おっしゃる通り、その通りです。でも、プロダクトアウト的な発想で売りたいものばかりを商品化したり、事業者が考える付加価値の押し付けだけではこれからの時代はどんどん売れなくなっていくと思います。
そもそも付加価値とは何か?
先ほども書いたように「付加価値=機能」と思っている人が意外と多いです。または「付加価値=会社がかけている金銭的・人的コスト」と思っている人も多いですね。これは、必ずしも間違いとは言い切れませんが、それが常に正しいとも言えません。
例えば、
- 「私はこんなに尽くしていろいろやっているのに、どうして相手(彼/彼女)には伝わらないんだろう…」
- 「こんなに精いっぱい残業もして休日も返上して仕事したのに、なんで上司にはわかってもらえないんだろう…」
こういう話って日常生活や仕事のシーンでも多いですよね。なぜこんなことになるのかと言えば「相手が求めているものと違うから」です。これだとイメージわきやすいかと思います。
- 「こんなに時間や手間暇をかけて作っている結婚式(やその商品)なのに、なぜお客様に買ってもらえないんだろう」
→お客様が求めているものと違うからです。
こういう話なのだと思います。ここのボタンの掛け違いが起こっていそうなのに、トークや価格が原因である、だからもっとこうしようという議論が多いなと思うんですよね。
もちろん、時間やコストをかけた商品の方が独自性を出せたりクオリティの高いものが仕上がるので価値を感じてもらう可能性は高くなると思いますが、ユーザーは企業側がかけたコストやスペックを買うわけではないので、ユーザーが購入する際に満足する価値を提供できるかどうかがポイントになるのです。
まとめると、結婚式場運営における付加価値とは「ユーザーが求めるものに対して結婚式場が提供する価値のこと」であると言えますし、そこがずれているのに他の方法で解決しようとするとゆがみが生じると言えます。
商品開発時に付加価値を考えるポイントとは?
では、何を提供したら価値を感じてもらえるのか?となるわけですが、突き詰めるとある商品やサービスに対して価値を感じるかどうかは人それぞれなので、どういう人に対してどういう商品・サービスを提供できれば良いのか?をもっと深く検討することが重要だと思います。
いくつかケースを挙げて考えてみます。
ケース①:フォトグラファーを選べるプランを追加した
アイテム別の組単価を分析したところ、特に最近写真の単価下落が著しく、写真の単価を上げるために何か施策を打ちたい。
そこで、最近はフォトウェディングでもフォトグラファーごとのページが用意されていたりするのをよく見かけるので、「フォトグラファーを選べる」ことに魅力を感じるユーザーも多いのだろうと思い、オプション1万円でフォトグラファー選べるプランの販売を開始した。
さて、このケースはどう思いますか?
▼見解
フォトグラファーを選べることがお客様にとっての価値あるサービスになるとすれば、下記の2点は最低限の前提となります。
- フォトグラファーごとにプロダクトが異なる(撮影する写真のテイストや、レタッチのスキルなどに違いがある)
- お客様がそのプロダクトの違いにこだわっている
もし選ぶことができてもフォトグラファーごとに撮影する写真に差がなければ、結局誰を選んでも変わらないな…と思われてしまいますし、そもそもお客様が写真にこだわっていなければ初めから「誰でもいい」、となってしまいます。
なので、もしこの施策を実行しようと思うのであれば、上記2点「本当にニーズとしてあるのか?」「そのニーズに応えるだけのプロダクトを用意できるのか?」ここをしっかり考えていないと、せっかく商品を作ったのに売れない!他社では売れているのに!となってしまうと思います。フォトグラファーを選べることにそもそも付加価値があるのかどうかがポイントであり、そういったユーザーが自社会場に顧客にいるのかどうか、事前ヒアリングやアンケート調査などはした方がよいと思います。
例②:打合せの回数を増やす
組単価が上がらない状況を打合せプランナーにヒアリングしたところ、打合せの回数が4回で各商品について十分に提案する時間を確保できないから単価が上がらないという声が聞こえた。
そこで、しっかり提案できるように打合せの回数を5回に増やすことにした。お客様にとっても不安や不明点をクリアにできる機会が増えるので顧客満足も上がるであろうと考えている。
このケースはどう思いますか?
▼見解
ユーザー求めているかどうか次第。プランナーとの接触回数が増えるので不安や悩みを相談できる機会は増えるのはメリットなりうるし、特定の人だけではなくかなり多くのユーザーにとって価値を感じてもらえそう。
その一方、プランナーの工数は確実に増えるので、業務がおろそかになってしまうこと、残業時間が増えるたり必要な人員数が増えること(コスト増加)、プランナー1人当たりの生産性が下がること(売上/人員数)、などのデメリットと比べたときにどうかで判断するべきだと思います。付加価値は上がると思うけど、それ以上のデメリットがあることがリスク、となると思います。
例③:料理打合せに必ずシェフがご挨拶をするとの打合せでオリジナルメニューにする
顧客満足度調査を分析したところ、特に料理の点数が低く、料理の満足度を上げるために何か施策を打ちたい。
そこで、料理打合せに必ずシェフが同席するようにオペレーション変更をし、料理に対する思いやこだわりなどを語ってもらうことにした。それによってお客様に作り手から料理の大切さをきちんと伝えられるので、顧客満足度が上がると考えている。
さて、このケースはどう思いますか?
▼見解
シェフが同席すること、料理についての説明をこれまでよりも厚く行うようにすること、これ自体は付加価値は上がる可能性が高いと思いますし、料理を重要と考えるユーザーは多いですから、価値を感じるユーザーの幅も広いでしょう。一方、それで顧客満足度が低いという課題が解決するかどうかは不明だと思います。料理の顧客満足度が低い理由が、味なのか、見た目なのか、提供のスピードなのか、ボリュームなのか、もう一段階の深堀が必要でしょう。もしその原因がシェフの説明で解決できるなら会場側が期待することとユーザーが求めていることが一致するわけですが、そうでない場合は単なるコスト増で終わってしまうと思います。
3つのケースから考えられること
事象→仮説→施策、の一連の流れに対して、そもそもの考え方や実行前に追加で検討した方がいいと思うことを見解としてまとめました。こういった議論や会話は日常的にもよくあるんじゃないかなと思いますが、もし上記のような程度の議論で施策まで結びついてしまっている場合は、具体的な施策を実行する前に「それって本当にユーザーに価値を感じてもらえるんだっけ?」というのをもう少し深く考えてみる必要があるかもしれません。
改めてポイントをまとめると下記3点になります。
- その商品やサービスに価値は感じてくれるユーザーはいるか?なぜ価値を感じるのか?
- そのユーザーは自社会場のうちどのくらいの割合でいるのか?
- 結婚式場側の課題と感じている事象はそれで解決するか?
これから先、結婚式場の商品開発はどう考えるべきか?
最後に、ここは完全に主観ですが少しだけ。
どのユーザーもまんべんなく価値を感じるような結婚式に関する商品やサービスは「価格」以外にほとんどありません。どんな人に価値を感じてほしいのかその対象となるユーザーをきちんと定め、そのユーザーに対してがっちり刺さるプロダクトを設計して販売していくことの重要性が、今後はより高くなっていくと思います。いうなれば選択と集中です。
結婚式に関連する商品で、最も大きいのは言うまでもなく「会場」。リニューアルするなどの方法はあるものの、かかるコストや期間などを考えると実質的にはこれはほぼ不可逆なので、できるだけ広いニーズに対応できるように設計されることがこれまではほとんどでした。ただしこれからは、単に白が好きとかピンクが好きとか、クラシカルかモダンかとかそういったニーズではなく、ユーザーが価値を感じるポイントは少しずつずれてくるんじゃないかなと思います。会場建築にかかった費用は結局ユーザーの支払いに乗ってくるので、特にニーズもないのに豪華にしすぎた会場は逆に落とされていくのかもしれませんね。
また、会場以外の商品開発やプラン設計なども同じで、こういった商品をつくろう!これはいいのですが、それに価値を感じる人はほんとにいるの?どれくらいの割合でいるの?それが投入されると自社の課題は解決するの?ここの(思い込みではない)深堀りや分析はもっと必要だと思います。なんか、こんな商品あったら売れるだろう、というのがあまりにもシンプルに前提として認識されてしまっている気がします。。
でないと、最終的には価格競争しかできない業界になっていってしまうので、具体的なアイディアが今の自分にあるわけではないのですが、こんなことを最近思ったので記事を書いてみました。
結婚式の付加価値についてまとめ
- 結婚式場がコストをかけたからと言ってそれがユーザーにとって価値になるとは限らない
- 本当に価値あるものを作るためには事象やユーザーの深い分析と施策の立案が必要なので、それを身に着けるための訓練をしなければいけない
- ただし、高い価値を感じるものを作れば作るほど、その価値を感じる属性のユーザーの割合は少なくなる
- なので、結局はどんな人にどんな商品・サービスを届けたいか、これをガチで考えつくすこと大事
こういうことかなと思います。