アナロジーの市川(@analogy_ichitk)です。
結婚式場の新規をされている方やマネージャの方とお話しすると、見積り提示するときにつける特典(値引き)の金額の決め方があいまいになってしまっていて管理できていない、という悩みを持っている方が多い印象です。明確なロジックやルールに基づいて運用しているというよりも、その場の判断で指示を出していたり見積りを作って提示している方がほとんどではないでしょうか。
ただ、ルール化しようにも体系的にロジックをキチンと整えるのはなかなか難しいと感じる方も多いでしょう。そこで今回の記事では、新規時に設定する値引額を決めるロジックを、八百屋さんに例えてわかりやすく解説します(なぜ八百屋さん?という突っ込みは無しでお願いします)。スライドがとても多い記事になってしまったので、サラサラと読み進めていってください。
目次
STEP①:八百屋さんを例に一番稼げる方法を考えてみよう
まず今回の設定ですが、あなたは八百屋さんです。お客様に野菜や果物を売って売上を稼ぐことが目的です。
まず、リンゴを10個仕入れてきました。さて、いくらで売るか決めてください。
これだけだと情報が少なすぎてちょっと難しいですね。そこで、近くのスーパーと八百屋さんのリンゴの値段を調べてきたら、スーパーは100円、八百屋さんは120円でした。
これを踏まえて、最初は1個80円で売ることにしました(他のお店より安い方が売れると考えたからですね)。
その結果、見事完売して800円の売上になりました。
そこで、もっと儲けたいと思い、次は強気に120円で売ることにしました。
6個売れて4個売れ残りました。120円×6個=720円の売上で、80円で売ったときよりも減ってしまいましたね。
4個も売れ残って廃棄しなければいけないのは悲しいです。でも、120円でも6個は売れることがわかったので、120円でも売りつつ売れ残りをさせないために、次はタイムセールを実施し、18時までは120円、18時以降は80円で売ることにしました。
120円で6個売れ、80円で3個売れ、1個売れ残りました。売れ残りはあるものの売上合計は960円となり、これまでで一番大きくなりました。
さて、タイムセールが成功したので値段はこのままでいくとして、次に取り扱うリンゴの品種を増やすことにしました。ブランドリンゴと訳アリリンゴを追加し、計3種類のリンゴを10個ずつ販売することにし、売上アップを狙います。
最初は、3つとも同じ値段×タイムセール実施(18時までは120円、18時以降は80円)で売ることにしました。
その結果、
- ブランドリンゴ:120円で10個
- 普通のリンゴ:120円で4個、80円で4個
- 訳アリリンゴ:80円で3個
売れました。合計で1,200円+800円+240円=2,240円ですね。うーん、まだ改善の余地がありそうです。
売れてはいますが、売れ残りも多いですし品種によってばらつきがあるので、次はそもそもの定価とタイムセールでの販売価格を次のように変えて売ることにしました。
- ブランドリンゴ:(定価)150円→(タイムセール)120円
- 普通のリンゴ:(定価)120円→(タイムセール)80円
- 訳アリリンゴ:(定価)80円→(タイムセール)50円
その結果、
- ブランドリンゴ:150円で5個、120円で5個(つまり完売)
- 普通のリンゴ:120円で6個、80円で3個
- 訳アリリンゴ:80円で4個、50円で3個
売れました。合計で2,660円です。先ほどよりも20%近く売上がアップしましたね!
もうある程度満足なのですが、もう少し何とかできないかと思い、買い物客にとってもっとお得感を伝えたいと思い値段の表記を変えることにしました。どのリンゴも定価は150円、先ほどの販売価格になるように値引きシールを貼ります。
その結果、
- ブランドリンゴ:150円で5個、120円で5個(つまり完売)
- 普通のリンゴ:120円で8個、80円で2個(つまり完売)
- 訳アリリンゴ:80円で6個、50円で3個
売れました。合計で3,100円です。先ほどよりもさらに20%近く売上がアップしましたね!
最初よりだいぶ売上を増やすことができました。もう満足なので、ここまでの内容をまとめます。
- 商品の人気度によって差を出す(品種別の定価の変更)
- 賞味期限が近くなってきたら販売価格を下げる(タイムセールの実施)
- 定価を変えるのではなくお得感を出すために「〇〇%OFF」の表記にする
これらの施策を実施したことで、八百屋さんの売上を伸ばすことができました。
STEP②:結婚式を例に稼げる方法を考えてみよう
では次に、八百屋さんを例にした価格決定の考え方を、そのまま結婚式に置き換えて考えてみましょう。読み替えるポイントは、
- 店員→ウェディングプランナー
- リンゴ→結婚式の施行枠
- 買い物客→新郎新婦
これだけです。あとは全く同じ考え方です。
では、進めます。
まず今回の設定からですが、あなたはウェディングプランナーです。お客様に結婚式(の施行枠)を売って売上を稼ぐことが目的です。
あなたの所属している結婚式場では1ヶ月に10組(1日1組完全貸切)の結婚式を執り行うことができます。さて、いくらで売るか決めてください。
これだけだと情報が少なすぎてちょっと難しいですね。そこで、同じエリアにある別のホテルとレストランの結婚式の価格を調べてきたら、ホテルは320万円、レストランは280万円でした。
これを踏まえて、最初は1組250万円で売ることにしました(他の結婚式場より安い方が売れると考えたからですね)。
その結果、見事完売して2,500万円の売上になりました。
そこで、もっと儲けたいと思い、次は強気に350万円で売ることにしました。
6枠売れて4枠売れ残りました。350万円×6組=2,100円の売上なので、250万円で売ったときよりも減ってしまいましたね。
4個も売れ残ったとしても、会場の地代家賃や人件費は同じくかかるのでコストがもったいないです。でも、350万円でも6枠は売れることがわかったので、350万円でも売りつつ売れ残りをさせないために、次はタイムセールを実施し、6か月前までは350万円、挙式日まで6か月を切ったらは250万円で売ることにしました。
350万円で6枠売れ、250万円で3枠売れ、1枠売れ残りました。売れ残りはあるものの売上合計は2,850万円となり、これまでで一番大きくなりました。
さて、タイムセールが成功したので値段はこの方針でいくとして、次に商品である施行枠を増やすことにしました。1日1組完全貸し切りから1日2回転するオペレーションに変更し、人気の高い土曜日午後枠、普通の人気の午前枠、人気の低い日曜日午後枠、の計3種類の施行枠に分割し、それぞれ5枠、10個、5枠ずつ販売することにし、売上アップを狙います。
最初は、3つとも同じ価格×タイムセール実施(6か月前までは350万円、6か月を切ったら250万円)で売ることにしました。
その結果、
- 土曜日の午後枠:350万円で5枠
- 午前枠:350万円で3枠、250万円で3枠
- 日曜日の午後枠:250万円で1枠
売れました。合計で1,800万円+1,050万円+750万円+250万円=3,850万円ですね。1日1枠完全貸切のときの売上から伸びてはいますが、まだ改善の余地がありそうです。
売れてはいますが、売れ残りも多いですし施行枠によって売れ方にばらつきがあるので、次はそもそもの定価とタイムセールでの販売価格を次のように変えて売ることにしました。
- 土曜日の午後枠:(定価)450万円→(タイムセール)350万円
- 午前枠:(定価)350万円→(タイムセール)250万円
- 日曜日の午後枠:(定価)250万円→(タイムセール)150万円
その結果、
- 土曜日の午後枠:450万円で3枠、350円で2枠(つまり完売)
- 午前枠:350万円で5枠、250万円で3枠
- 日曜日の午後枠:250万円で1枠、150円で1枠
売れました。合計で4,750万円です。先ほどよりも20%近く売上がアップしましたね!
もうある程度満足なのですが、もう少し何とかできないか…、新郎新婦にとってもっとお得感を伝えたいと思い価格の表記を変えることにしました。どの施行枠も定価は450万円にし、先ほどの販売価格になるようにお得な特典プレゼント!とホームページや媒体に告知することにします。
その結果、
- 土曜日の午後枠:450万円で3枠、350円で2枠(つまり完売)
- 午前枠:350万円で6枠、250万円で3枠
- 日曜日の午後枠:250万円で1枠、150円で2枠
売れました。合計で5,200万円です。先ほどよりもさらに10%近く売上がアップしましたね!
最初よりだいぶ売上を増やすことができました。もう満足なので、ここまでの内容をまとめます。
- 商品の人気度によって差を出す(施行枠別の定価の変更)
- 賞味期限が近くなってきたら販売価格を下げる(タイムセールの実施)
- 定価を変えるのではなくお得感を出すために「〇〇%OFF」の表記にする
これらの施策を実施したことで、結婚式場の売上を伸ばすことができました。
STEP③:稼げる方法を抽象化してロジック化しよう
ここまでで終わってしまうと、「実際のプライシングはそんな単純ではない!」って怒られてしまいそうなので、ベースとなるこの考え方について、最後にまとめておこうと思います。
今回の記事で紹介した八百屋さんの例も結婚式場の例も、考え方のシナリオは全く同じです。共通しているのは
- 商品数が限られていること
- 値段を高くすれば売れなくなる確率が高くなり、値段が安ければ売れる確率が高くなること
- 商品(品種、施行枠)ごとに人気(売れやすさ)に差があること
この3点です。結婚式場の新規接客時の値引き額はどうしても相対的な要因で決めてしまいがちです。
- 競合会場がいくら値引いているから~
- お客様が〇〇万円にしてくれたら決めると言っているから~
などですね。ただ、ここまで書いてきたように、本質的に考えなければならないポイントはその値引きで販売したときに売上が最大になるのかどうか?です。図解すると以下のようになります。
このロジックをきちんと頭に入れたうえで、最終的に売上が最大化するためにはいくらの値引きを使えばいいのかのルール作成をするのがキモです。
ただ、今回の記事の中では
- 結婚式は申込(購入の意思決定)から役務提供(結婚式の実施=売上が立つ)までに時間がかかること
- 必要な成約数を確保するための来館が担保されていることを前提として話していること
この2つがポイントとしては抜けています(抜いています)。
なので、実際にルールを考える・決める時はその観点も考慮して決めるのがいいでしょう。
新規接客時の値引き額決定ロジックの考え方についてまとめ
スライド満載、長々と値引きロジックの基礎的な考え方についてまとめてみました。今回の記事は具体的な値引きロジックの作り方というよりは、もっと手前の「どういう考え方に基づいて値引きを決めればよいのか?」について、具体例を示しながら書きました。八百屋さんの例えが適切かどうかはわからないですが、シンプルなモデルでイメージがしやすいだろうと思ったのと、いい感じのイラストが見つかったのでそうしました。
ちなみに、今回のスライド内でつかったイラストは、皆さんご存知「いらすとや」のものを使用しています。