アナロジーの市川(@analogy_ichitk)です。
お客様への結婚式の価値を提供できているか?ブライダル業界でもよく議論されるテーマだと思います。企業の大小、働き方、職種を問わず「結婚式を挙げる方」にとって最高の一日を創ることを目指して日々の業務に従事ししている方がほとんどでしょう。では、そもそも「結婚式の価値」とは一体何なのでしょうか?明確にこれだ!という答えがある話ではないことが前提ですが、今回は私の考える結婚式の価値について考えます。
目次
サービスの本質的な価値とは?
https://www.youtube.com/watch?v=QyDznlkiFRU&t=7s
今回の記事の書くきっかけになった動画はこちらです(外部リンク)。
- 高級店のテイクアウト、なぜバカ高く感じるのか?〜本質的な提供価値から考えてみよう!
- 田端大学Youtube支店
- 約20分ほどの動画
少し前の動画ですが、内容を要約すると下記のような感じです。
- 客単価5万円の高級レストランが8万円(4人分)のデリバリーを開始した
- しかしながら、その価格は多くの人が高いと感じている
- その理由は高級レストランの提供価値の多くは料理そのものではないからだと考えられる
- 高級レストランの本質的な付加価値は空間やロケーション、接待や交際などでのプレミアムな機会の提供
- 業態を問わず、自分たちのサービスや商品が提供している本質的な価値を正しく理解することは大切である
上記のようなマーケティング視点はブライダルでも同じく考える必要があり、提供スタイルの多様化が予想される今後は多くの業界人が考えているテーマだとも思います。
- 通常、15,000円で提供しているコース料理をUber Eatsでデリバリーした場合いくらで売るのか?
- 通常、25万円でレンタルしているウェディングドレスを配送して家で着られるサービスを展開したら1回いくらにするか?
- 通常、3万円で販売しているブーケをECサイトで売るとしたらいくらになるのか?
- 通常、350万円で販売している結婚式をオンラインで開催するとしたらいくらで売るのか?
- というか結婚式場が提供している付加価値ってそもそも何?
こういった難題に対して答えを出していくには「自分たちが提供している価値は何なのか?」を紐解いていくことが必要です。単品アイテムについて考えることももちろんですが、結婚式は様々なアイテムや要素から成り立っている複雑な無形商材なので、複合的にこれらのアイテムや空間が作り出す価値とは何なのか?という視点も求められるでしょう。
私は結婚式の付加価値は3つに分解して考えてます。
- 物質的価値:結婚式で提供する素材そのものの価値
- 技術的価値:仕入れた素材を商品化することで生まれる価値
- 情緒的価値:「結婚式」という空間・時間によって創り出される価値
①結婚式の物質的価値とは?
まず物質的価値とは、「結婚式で提供する素材そのものの価値」を指します。
会社の規模や内製/外注、会計上の仕訳方法によって異なるものの、結婚式の原価率はおおよそ40-50%程度だと思います。つまり、結婚式のうち40-50%は物質的価値です。※上場企業の利益率については下記の記事でまとめていますので参考にご覧ください。
いくつかのアイテムで考えてみましょう。
- コース料理
原価率20%で15,000円のコース料理の場合、3,000円が原価で12,000円が粗利。 - フリードリンク
原価率20%で4,500円のフリードリンクプランの場合、900円が原価で3,600円が粗利。 - ドレス
1着20万円で仕入れて10回レンタル、1回あたりのレンタル料を25万円とする場合、2万円の原価で23万円が粗利(正確には資産計上するので償却費) - 花
原価率30%で30,000円のブーケの場合、9,000円が原価で21,000円が粗利。
この原価分が物質的な価値です。
ここはシンプルに、いいものを使うほど提供価値が高くなります。例えば料理であれば、豚<仔牛<和牛<ブランド牛、と価値は上がりますし、ドレスであればいい素材を使って作られている方が物質的価値は高くなります。あと、ハード(=結婚式場)の要素はここに含まれるますね。
—補足—
ちなみに、原価率が低い会社はお客様に対して真摯ではない、という意見もたまに聞きますが、同じ素材であっても仕入れのロットによってコスト低減ができるので、必ずしもそうだとは思いません。事業規模を拡大し同じ素材を大量発注することで単価を抑えたり仕入れ業者と交渉したりというのは企業努力の範囲であることは一定理解したほうがいいと思います。
②結婚式の技術的価値とは?
次に技術的価値とは「仕入れた素材を商品化することで生まれる価値」を指します。まぁこれを技術的価値を表現することが妥当かはわからないですが…。先ほどと同じく具体的なアイテムで考えてみましょう。
- コース料理
仕入れた食材をフレンチなど料理にする、同じタイミングで複数人分提供する技術に対するの価値 - ドレス
保有しているドレスで最高の花嫁姿をコーディネートする技術に対する付加価値 - 花
仕入れた花材をブーケや花冠などフラワーアイテムに仕上げる技術に対する価値 - 当日エンドロール
撮影した映像を披露宴中にエンドロールに仕上げて放映できる技術に対する価値
簡単に言うと各商品の付加価値の中の技術料というイメージです。なので会計上は人件費に該当すると考えるとしっくりきますね。
・技術力が高い人またはブランドを持つ人=価値も高い=人件費も高い=販売単価も高い、という理屈です。
あと、無形ですけどコンセプトメイキングや進行組などのプランニングの付加価値も定義上はここに入ると思っています。腕のいいプランナーの場合とそうでない場合で作り出す結婚式に大きな違いがあり、生み出す価値も変わってくるはずです。有形だけど仕入れのないフォトもそうですね、腕のあるフォトグラファーとそうでない場合の仕上がりには大きな差が出るので、それも価値の違いと言えるでしょう。
③結婚式の情緒的価値とは?
最後の情緒的価値とは、「「結婚式」という空間・時間によって創り出される価値」のことです。ここまでの結婚式のアイテムの素材+技術によって磨かれたアイテム、これらが1つとなって作り出す体験が生み出す価値のことです。結婚式に関わる人によって式の捉え方は異なるのであくまでもイメージですが、
- 新郎新婦とゲスト
旧友との久しぶりの再会、お互いのパートナーの紹介、思い出話を懐かしみながら盛り上がれる時間 - 新郎新婦と親族
これまでの感謝を伝えられる時間、これからの生活への誓い - ゲストとゲスト
久しぶりの再会、新しい出会い - ゲストと親族
職場の方への挨拶の時間、久しぶりの再会と思い出話 - 新郎と新婦
これからの生活へのけじめ、初めての共同作業
こんな感じです。
いい結婚式だったね、というお世辞ではないゲストからの言葉や、準備期間を含めてのやってよかったと思える新郎新婦の経験、結婚後の両家の穏やかな関係性の構築など、こういったところが結婚式に含まれる3つ目の価値だと言えるんじゃないかなと。※ここの言語化力低くてすみません、、が何となく伝わってくれると嬉しいです。なんだかんだ言ってほら、結婚式っていいものじゃないですか。あれです、あれ。
結婚式の「コスパ」の概念
一つ補足しておくと、よく言われる「コスパ」とは、このような価値を合計した「お客様が感じる価値」と「実際に支払った金額に対して感じる価値」のバランスによって決まるものです。
- 結婚式の価値 > 金銭価値 →コスパが良い結婚式
- 結婚式の価値 = 金銭価値 →値段相応の結婚式
- 結婚式の価値 < 金銭価値 →コスパが悪い結婚式
で、この価値の感じ方も人によってそれぞれです。結婚式の価値をどれくらい感じて漏れるかは何を重視しているかによって変わりますよね。例えば料理を重視する人であれば①と②の比率は高まるでしょうし、コンセプトや体験を重視する人であれば③の比率が高いはずです。
また、金銭価値も同じ300万円の結婚式だったとしても、年収300万円の人と年収1,000万円の人であればその金額への感じ方は異なりますよね。
- 結婚式の価値:お客様が何を求めているかの重要度と事業者側が提供するサービスの内容で相対的に決まる
- 金銭価値:お客様の収入や資産によって相対的に決まる
このように「結婚式の価値」は相手によって複数の不確定要素を踏まえて決まるものなので、常にブラッシュアップしていくことが必要になると思っています。
訴求する付加価値とマーケティング
ここまでをまとめると次のようになります。
●結婚式の価値=物質的価値+機能的価値+情緒的価値
- 物質的価値=ウェディングアイテムの素材
- 技術的価値=素材を磨く技術
- 情緒的価値=完成された時間と空間
●結婚式のコスパ
- 結婚式の価値 > 金銭価値 →コスパが良い結婚式
- 結婚式の価値 = 金銭価値 →値段相応の結婚式
- 結婚式の価値 < 金銭価値 →コスパが悪い結婚式
ブライダル業界で働いている方であれば、お客様にしっかりと提供したい、届けたいと思っていることでしょう。少し話題がそれますが、ここまでの定義をもとにどのような価値をどのような方法で顧客に訴求していくのか、マーケティングについても触れてみます。
①物質的価値を訴求する
他社会場や他プロデュースサービスとの違いで自分たちが最も強いと思える部分を、(合法的な範囲で誇張して)情報として発信していくことで対象顧客に広く知ってもらうことが必要になります。
例えば料理の強みを素材とするならコースのメインはすべて神戸牛を使用しています、などの訴求は分かりやすい例だと言えます。素材の価値は一般認知が取れているものの場合は伝わりやすいですからね。
まぁただ物質的価値の訴求で最もわかりやすいのはハードのデザインでしょう。チャペル、バンケット、エントランス、ホール、などの会場写真が一番伝わりやすいと思います。これまでの成功事例としてはゲストハウスタイプや大聖堂系チャペルのゼクシィ掲載による、台頭、人気沸騰、浸透だと個人的には思ってます。
②技術的価値を訴求する
人にフォーカスして情報を発信していくことがポイントになります。働いているスタッフの肩書や受賞歴、経験など、その技術への信頼を裏付ける事実とともに訴求していきます。さらに個人と合わせてチームとしてブランディングしていくこともできるので、小規模プロデュースチームだと訴求しやすいかなぁと思いますね。
例えば、三ツ星レストランのシェフが作るフレンチ、パリコレでも活躍するデザイナーによるオーダーメイドドレス、芸能人のウェディングプロデュースも数多く手がけてきたプランナーが作るウェディングコンセプト、など他者とは明らかに異なるレベルの技術を訴求していく、などが考えられます。
ちなみに成功事例としては、初期のCRAZYが圧倒的な空間デザイン力をSNS×写真で訴求して支持を得て急成長、というのはマーケティングの上手な事例だと思ってます。
③情緒的価値を訴求する
結婚式を通じて得られる体験を発信していくことがポイントになります。ただ、明確に言語化・数値化することができないので極めて抽象度の高い領域になりやすく、初めてのユーザーにわかりやすく知り理解してもらうのはかなりハードルが高いです。
- 世界に1つだけのあなただけのウェディングをつくります
- 結婚式という一生忘れられない体験を
これらは素敵なんですけど、誰でも言えてしまうんですよね。この訴求で事業として結果出していくならブランドが必要でしょう。ありふれた訴求ワードであっても「あなたがそう言うのなら…」という強い信頼を得られている状態ですね。具体的に何すればいいんだと言われると…、うーん。ちょっとわかりません。。
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ちなみに現状のブライダル業界を考えてみると、実態としては物質的訴求(のうちのハード)がほとんどですね。ゼクシィをはじめとした媒体で探す人が大部分、媒体掲載のフォーマットは会場訴求用に作られているから、というのが理由です。
一方、実際にお客様と接しているプランナーやスタイリストの方とお話しすると情緒的訴求をしていきたいと思っている方が多いような気はしますね。矛盾…ですよね。マーケティングはどれか1つで訴求しなければいけないということはないですが、網羅的に全部訴求したところでピントがぼけてお客様には伝わらないので、自分たちの付加価値創出における強みって何なんだっけ?というのを改めて考えて戦略を練っていくことが必要になります。
結婚式の価値についてまとめ
- ゲストからのご祝儀は平均で3万円
- 新郎新婦は50-60万くらい自己負担
多くの人にとって結婚式は人生の中で上位にランク入りする高額商品です。そのため、結婚式は高い、ボッタくりだ、などとよく言われます。でも、同じような価格帯の商品で「レクサスは高い、ボッタくりだ」というフレーズはほとんど聞いたことがありません。
結婚式の価値ってはりわかりにくく、また提供している側でも会社や人によって様々だと感じています。
今回は私が思う価値って何?というのをかなりドライに定義化してみましたが、これが正しいでしょ?というつもりは全くないので、結婚式の価値って?という問いについて考える1つのきっかけになると嬉しいです。
—追記—
物質的価値について、厳密に言えば下請け、孫請け会社の技術ということを考えるとそこの技術的価値と言えますが、今回は結婚式場目線で書いたのでざっと原価で、としています。