アナロジーの市川(@analogy_ichitk)です。
DX(デジタルトランスフォーメーション)と叫ばれるようになって久しいですが、ブライダル業界のでDXがなかなか進まない理由について書いてみます。
目次
DXとは?
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、Digital Transformationの略語で、デジタル技術を用いることで、生活やビジネスが変容していくことをDXと言います。
詳しく書くと長くなるので、興味ある方はググってみるなりChatGPTに聞いてみるなりしてください。
感覚的には3年前くらいから聞かれ始めて、引き続き言われ続けて入る、というイメージ。Googleトレンドを見てもそんな感じがしますね。
DXを推進する目的は、大きな枠組みだとデジタルビシネスの創出であり、そこに至る過程でデジタル技術を用いた業務改善や新たな付加価値創造と言えます。
ブライダル業界のDXの現状
さて、近年のブライダル業界のDXは進んだのでしょうか?
部分的な導入や改善はあるものの、まだ個別業務の改善といったところで正直あまり進んだ印象はありません。
あるとすればZoomなどのオンライン会議の一般化、結婚式当日のオンライン参加、Web招待状くらいでしょうか。
DXにはいくつか段階がありますが、ブライダル企業は多くはまだまだ第一段階といったところだと思います。大手企業だと業務のデジタル化やシステム活用を進めているという話も聞きますが、特に中小企業だと紙の資料も多く残ると聞きます。
ブライダル業界でDXが進まない理由
次の4つが大きな理由だと考えています。
- 人材がいない
- 実行するのが大変
- 効果が小さい
- 投資の原資がない
①人材がいない
DXを推進するためには、オペレーションとデジタル技術の両方を理解した人材が必要です。
デジタルツールありきのオペレーションを構築しても、現在のオペレーションを前提としてツールを合わせても効果は得にくく、デジタルツールを活用することでオペレーションを最適化し、付加価値の最大化とプロセスの効率化を実現することがDXの目的だからです。
今の業界にはオペレーション理解に長けている人材は多いですが、デジタルに長けている人はほぼいません。一方、IT業界にはデジタルに長けている人はたくさんいますがブライダルのオペレーションについては無知です。
となるとそもそも要件を満たす素養のありそうな人材を探して育成するか外部パートナーを探すことが必要なのですが、後述の理由からこの領域への投資に対して積極的ではないため、そもそもできる人がほとんどいないのが1つ目の理由です。
②実行するのが大変
ブライダルでは1つの商品(=結婚式)の提供に至るまでに関係する企業やオペレーションが複数社にまたがるので、DXを進めるにもそもそも共通規格を作りにくい構造だと言えます。
そのため、ルールとして設定いるメインフローはあれども、イレギュラーの対応をしていることも少なくありません。
社内で受発注システムを導入したが古くからの付き合いのある写真屋さんがシステムは難しいということで特例としてFAXでの発注を許可している、みたいなやつです。
そのためシステムの要件を定義することよりも、その上に関係者全員が乗ってもらう(システムを使ってもらう)ことのコミュニケーションコストがかなり高いのが大変、というのが2つ目の理由です。
③効果が小さい
結婚式場のビジネスモデルは以下の通りです。
- 売上=集客数×成約率×組単価
- 主なコスト:原価、地代家賃、広告宣伝費、人件費、その他
このような構造なので、DX施策の実行によって業績的なインパクトをもたらすには上記いずれかのKPIが改善されなければいけません。
- 集客数・成約率:現状のユーザーニーズにプロセスの効率化があるとは言い難いのでDXを進めても効果なさそう
- 組単価:これも関係なさそう
→よって売上向上には効果が期待しにくい
- 原価:DXとは関係なし
- 地代家賃:これも関係ない
- 広告宣伝費:集客効果が期待できないので関係なさそう
- 人件費:効果ありそうだけど半減とはいかなさそう。
→あるとすれば人件費抑制くらいの効果か?人材定着率が上がって採用コストの抑制にも効果あるかな?くらい。
さらに、業界構造的にシェアが分散していて小規模企業が多いので、DXによる業務効率化のメリットがさらに小さいというのも背景にあります。人件費が分散してしまっていますからね。
このようにDXを進めたとしても得られる業績的なメリットが小さいので、それなら集客に効果ありそうな会場リニューアルにお金使った方がよくない?となりがちなのが3つ目の理由。
④投資の原資がない
結婚式場運営はそもそも利益率が低く、上場企業でも営業利益率10%程度です。さらに、2020年~2022年の結婚式ができない期間に多くの企業が借り入れを実施しましたから、その返済が始まるとさらにキャッシュフローが厳しくなります。
そうすると、その中からさらにIT投資(DX投資)原資を捻出することはなかなかに困難であり、③でも書いたように投資対効果が期待しにくい分類になることから、投資優先度としては後回しになりがちです。
さらにDXへの投資はハードへの投資とは異なり、効果が出るまでに時間がかかります。
デジタル化→オペレーションフロー変更→使い慣れるまでの期間→効果が出るまでの期間→PLに反映される、という流れだからですね。
投資に対して年単位で考えていく必要があります。
これらを考えると限られた新規投資原資からDXへ、という判断にはなりにくいわけです。
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これらの4つの理由から考えると、意識や知識の不足というよりはビジネス構造上の問題が背景にあり、顧客側をつかんでいるゼクシィをはじめとした媒体が入り口になるというモデル自体を変えないとDXが進むことがないんじゃないかなと思ってます。
ブライダル業界のDXは相当にハードルが高いと思う
となると僕の中での結論はもう出ていて、式場側主導でDXを推進するのは無理だと考えています。
もちろん、紙台帳をシステムにした、エクセルだった見積りをシステムから出力できるようにした、といったようなレベルのツールのデジタル化くらいはできると思いますが、そこから先のレベルには達するのは相当ハードルが高そうです。
まして、今後フリープランナーをはじめとしたフリーランス人材の稼働割合が高まると、業界全体の効率は今より下がるかもしれません。個人で業務をシステム化できる人なんてIT経験者以外でほとんどいないですからね。
また事業者間の契約もかなり煩雑化するので、そのあたりも影響しそうです。
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じゃあこのままでいいのか?というと当然にそんなことはなく、もしやるとしたら今のビジネスインフラごと作り替えることが必要だと思います。
具体的には、集客から当日までのオペレーションを一貫して管理できるビジネスインフラ的なツールまたはソリューションができて、それに既存事業者が順に参加していくイメージ。
なのでトランスフォーメーションではなくデジタルスクラッチと言えるかな、と。
まぁいつ誰がやるの?の想像は全くできていないですが、もし実現するならそっちの方が早そうです。
人材のリテラシーは環境に依存する
あと最後にもう1つ。
今回のような小難しい話やデジタルツールの業務活用が苦手な人はブライダル業界には多い印象です。これってブライダル人材のレベルが低いのでは?と言われることもあります。
個人的な意見としては、ブライダル業界で働く人が低レベルということではなく、そういう環境に慣れてしまっていることが根本的な原因だと思っています。
ブライダルは良くも悪くも世の中の景気とは隔絶された産業だったので、デジタル化や働き方に関する社会の変化に対応・追随しなくても何とかなってきたんですよね。
だから未だに紙の契約書とFAXの受発注でも成約できる。ガラパゴス化です。
で、その環境に慣れてしまうと、普段IT使わないし意識もしないのでデジタルやIT、Webといったことに苦手意識を持つ人が増える。こんなサイクルがもう何年も続いてきているんじゃないかな、と。
英語使えなくても日本で生活できていると、気づいたら苦手意識持ってるよね、と似たような感じ。
一方、ずっとブライダルで働くにしても、いずれ転職して他業界に行くとしても、今後はITなどの知識は「社会人の一般教養」として必要なんじゃないかと思ってまして、どこかでそれが身につく環境で仕事をする経験はした方がいいと思います。
今回のようなDXの話もブライダルの人材レベルが低いからデジタル化なんて無理、ではなくて、強制的に環境ごと変えてしまえば全然できる人たちに化けるポテンシャルはあるんじゃないかなと思ってます。
意外とみんなすぐ使えるようになります(たぶん)。
ブライダル業界のDXが進まない理由についてまとめ
自分自身もDXについてどこまで理解しているかは微妙ですが、他業界での働き方の経験や最近セミナーとかも聞いてるので思うことを書いてみました。
DXはあくまで手段なので、最終的には
- 対顧客の付加価値創造
- 業界従事者の環境改善(給与、業務内容等)
ここにつながっていくといいなと思います。