アナロジーの市川(@analogy_ichitk)です。
結婚式場予算を策定するときに、高すぎると現実感がなくてモチベーションが下がってしまいやすくなりますし、逆に簡単すぎてもやりがいも感じにくくなります。
予算策定の方法は様々ありますが、今回の記事ではブライダル業界の予算の組み方で昨年対比ベースで考えない方がよい理由をまとめます。
一般的な予算策定の考え方
1.トップダウン方式
経営者が次年度の売上や利益の目標金額を先に決めて、それを達成するための数字を各部門の責任者や担当者が作る、という方法です。この方法で予算を作成するメリットには以下のような点が挙げられます。
- 目標数字が最初から明確でブレない
- 策定のスピードが速く短期間で数字を固められる
- どうやって数字を達成しようかと施策を考える過程で新たなアイディアが生まれやすい
- 数字の背景が理解されると、どうやって達成しようかという部署間の協力関係が生まれやすい
一方、デメリットもあります。
- 普段の部署間の仲が悪いとどの部署がリスクを負うかのような責任の押し付け合いが起こりやすい
- KPIが結論ありきで設定されるので現場の納得感が得られにくくモチベーション定価につながりやすい
- 数値確定後にメンバーに伝える中間管理職の精神的なストレスが半端じゃない(現実離れした数字になったとき)
ボトムアップ方式
各部門の担当者や責任者がそれぞれでまず次年度の予測数値を出し、それを予算編成部門が集約していき最終的に全社の数値をまとめていく方法です。この方法で予算を作成するメリットには以下のような点が挙げられます。
- 自分たちが作った数字なので責任もって取り組みやすい
- 現場の納得感を得られやすい
- 数値の実現確率が高い
- 予算を自分で作る、という業務を通じて、中間管理職の視野が広がりスキルアップにつながる
一方、デメリットもあります。
- どの部門も大きすぎる責任を追いたくないので、数字を集約したら赤字計画になった、ということが普通に起こる
- 予算策定にかかる工数が大きく、時間がかかる
- そもそも予算をどうやって作るかを全担当者が理解していないと、本当にカオスになる
- 予算策定業務を通じて新しいアイディアや発想が生まれにくく、現実的な路線から抜け出しにくい
予算の作り方に正解はないので絶対にこうすべき!というものはないですし、同じ会社でもフェーズや事業規模によって作り方を変えていくこともあると思います。
ただし、今のブライダル業界の状況や結婚式場運営のビジネスモデルを考えると、予算を立てるのであれば、基本の考え方は「ボトムアップ方式」がおすすめです。
結婚式場の予算は積み上げで作る方がいい理由
1.成熟産業なので、急激な成長曲線を描きにくい
トップダウン方式で予算策定を行う会社の多くは「前年対比で+〇%」などのパターンが多いでしょう。
ブライダル業界で前年比+〇%を実現しようとすると、既存店の業績をすべて〇%伸ばすか、〇%分の売上に相当する新店舗を出すか新規事業を立ち上げるしか方法はありません。市場自体はほぼ確実に縮小しますから、〇%+αでKPI成長しなければいけないのです。
現時点での社内の営業・集客の取り組みレベルが全然ダメなど定性的な改善要素がある場合は成長も見込めますが、そうでなければ数字ありきの無謀な計画になってしまいがちです。
- すでに次年度の出店計画がある
- 新規事業がマネタイズを見込めるレベルで成長している
- 確度の高い新たな集客施策を持っている
- 値引き増やす、商品構成を変えるなど成約率や単価に影響する施策の実行計画がある
など、具体的な施策無しに目標だけ掲げても絵に描いた餅になる可能性が非常に高いのです。
2.待ち営業が基本なので、気合と根性で頑張れる要素が少ない
結婚式場の運営では、媒体に広告を出稿し、結婚式場に来館してもらってから営業が始まりますので、法人の飛び込み営業のように「業績を足で稼ぐ」という要素がほぼありません。
営業KPIに大きな差がない状態であれば、結局集客力が業績に直結するので、盲目的に高い目標を達成しようとすると集客どこまでどうやって伸ばせるか、の議論に集約しがちなのです。
それならあえて無理な数値を掲げてるところから始めるのではなく、現実的にどこまで伸ばせるのか、それ以上の数値まで行くためにはどのような条件が必要なのかを考えたほうがいいのでは?と思います。
3.スタッフの納得感を得にくい目標を立てて離職されたときにリスクが大きい
今のブライダル業界は採用難易度が上がってきています。業界の市場縮小はすでに止まらないですし、働き方改革などマクロ環境の変化もあり大変な割に給料の安いサービス業の人気が落ちてきていることが理由です。
最近できた市場やこれから伸びていくと予想される市場では、人も集まってきやすいので高い目標を掲げて成長性をアピールするのも広報戦略としてありだと思いますが、そうではないこの業界で社内の離職が進んでしまいそうな施策を推し進めるのはリスクが高いと思います。
4.期が始まったタイミングで年度の売上の6割はすでに確定しているので、期中に頑張れる要素が少ない
結婚式は施策を実行してから売上を回収するまでのリードタイムが長い商材です。申込から挙式までの期間は平均で半年~8か月なので、例えば4月から翌3月までが決算期である会社の場合、4月が始まったときのメインターゲットは10月~12月に挙式を検討している顧客となります。
既に上期の勝負はほぼ終わっているんですね。
一般的に期初時点の受注残が該当期間の売上の6割になるので、4月から新しい施策に取り組もう!としている時点で、翌々期の売上にしか効いてこないのです。なので、トップダウンで施策とセットで数字を掲げたとしても、この時間軸を理解していないと成約増えているけど売上と利益は増えていない、となりやすく、評価されないので(達成しているはずなのに賞与が増えないなどが起こる)、社員の退職フラグが立ちやすくなります。
ボトムアップ方式で予算を作るときの注意点
1.任せてみたものの予算の作り方がわからない、フォーマットがバラバラの担当者が続出した
予算策定をやったことのない人にいきなりこの業務を命じても、期待するものが出てこない可能性の方が高いでしょう。数値の根拠や目線、フォーマットがバラバラな状態で一次提出させると、情報整理に恐ろしく時間がかかるので、この方式を取るのであれば事前に以下の準備をしていくとよいと思います。。
- 予算作成の統一フォーマットの作成
- 予算の作り方、PLなど会計に関する知識習得のための研修(管理職への登用要件にしてもいいと思います)
- 予算を作る際の数値の根拠、目指すべきストレッチ具合の目線合わせ
- 納期、問い合わせ窓口の明確化
- 当期の評価への影響度合いの明示(高い目標を自己申告したら評価される、みたいな謎なことが起きないように)
このように、事前準備が重要になるので、経営企画や管理本部系の予算取りまとめの大本の部門はプロジェクト化してでもできれば半年前くらいから準備をするといいのかなと思います。
2.数値を集めたら赤字になってしまった
各部門担当者に自部門の翌期予算を作らせると、達成できそうな緩めの数字をあげてくる人が多いですね。売上計画であれば「市場が落ちているので来期はこれくらい落ちると思います~」とか、コスト部門でも「原価が高騰しているので今期よりは高くなると思います~」とか。
まぁ現実的といえばそうなのですが、そのような数値を全部門で集計するとめちゃめちゃ数字悪くなってしまうことがあります(赤字になることも)。
非上場で中小規模の会社であればまだいいのかもしれませんが、上場企業で中期経営計画で株主にコミットしてしまっているときなどは、そのまま公表が難しいことも多いでしょう。そうすると、各部門から集めた数字をどうしても上げなければいけないので、結局トップダウンと変わらないような進め方になってしまいがちです。
なので、数字を組むときの「目線」はかなりしっかりと合わせておいた方がいいでしょう。本当は予算作成者にPL責任とかを追わせられるとリアリティを持って数字組めると思うのですが、そこまでの評価制度を組んでいない会社の場合は「どういう基準で数字を作るのか」という点を確実に決めて周知しておくようにしましょう。
3.メンバーへ伝えるときの方法がバラバラで現場が混乱した
予算数値が決まった後は、現場のスタッフへの周知をしなければいけません。多くの会社で予算数値はそのまま目標になり、その予算数値によって評価されるわけですからスタッフからするととても重要な意味を持つ数字になります。
そのため、担当者によっては伝え方に差がないように事前の準備が必要です。ブライダル業界であれば支配人やマネージャから数字を伝えられるケースが多いと思いますが、
- A迎賓館の支配人は「会社が決めた数字だからさ~、頑張ろうよ」と伝えた
- B迎賓館の支配人は「〇〇の根拠で、△△の数字になりましたので、□□の取り組みをして達成を目指します」と伝えた
- C迎賓館の支配人は「数字こうなりました」とだけ伝えた
このように伝え方に差があると、メンバーのモチベーションに差が出るだけでなく、期中で異動などがあったときのギャップが大きく会社への不信感につながるリスクが大きくなります。
数値が決まった後は、どうやって決まったのかをどのように伝えるのか、そのストーリーまで整えることが重要だと思います。
結婚式場予算の組み方についてまとめ
ブライダル業界の予算を作るときのオススメの方法と注意点をまとめました。今まさに予算を組まれている方も、これから本格的に取り掛かる方も、一つの考え方として参考にしてもらえたらうれしいです。