更新日 2021年12月16日

結婚式で「早割り」は実現可能か?想定されるメリットは意外と大きいのでは?

0247_結婚式で「早割り」は実現可能か?想定されるメリットは意外と大きいのでは?

アナロジーの市川(@analogy_ichitk)です。

結婚式の値引きや特典の常識は「直近ほど安い」。ブライダル業界で働く人はもちろん知っていますし、最近では卒花ブログやメディアでも書かれるようになってきたので、プレ花の人でも知っている人は多いのではないでしょうか?一方、ビジネスモデルが似ている飛行機やホテルなどは逆に、できるだけ早くに申し込んだ方が安くなることもありますね(早割や早得、といったキャンペーンはよく見かけると思います)。結婚式でそのようなキャンペーンがないのはなぜなのか?もし実施してみるとしたらどうなるのか?今回の記事では、ブライダル業界で早割は可能か?をテーマに考えてみたことをまとめてみます。

 

ブライダル業界のビジネスモデルのおさらい

ビジネスモデルの概要

結婚式場のビジネスモデルをシンプルに表すと

  • 売上=施行組数×組単価

このブログでも何度も紹介してきていますし、今さら感もありますが上記の通りです。ただ、この次の階層のKPIを分解するときが今回の記事ではキーになります。

  1. 施行組数=来館数×成約率
  2. 施行組数=施行枠数×稼働率

一般的な事業運営上は(1)の方で考えることがほとんどですが、事業計画を立てる時や投資に対する資産収益性などを考える場合は(2)の方法で考えることの方が多いです。施行枠数=売り物の数、稼働率=販売率、として、結婚式場の施行枠という売り物をどれくらい売ることができたのかを考える経営企画的な視点とも言えます。

これは、どちらが正解でどちらが間違いといった話ではなく、何を分析したいか何の施策を考えたいのかによって、分解していくKPIが変わる、と捉えていただいて問題ないです。

247_結婚式場運営のKPIツリー

実はホテルや飛行機のビジネスモデルと似ている

このように結婚式場のビジネスモデルをとらえると、実はホテルの運営や飛行機の運営と似ています。

  1. 販売する商品数があらかじめ決まっている
  2. 販売する商品とは、結婚式場は「施行枠」、ホテルは「客室」、飛行機は「座席数」
  3. 売上=販売商品数×単価、この式で計算できる
  4. 稼働率が何%であろうと掛かる固定費は同じ(細かな人件費などは除く)
247_結婚式場とホテルと飛行機の似ているポイント

上記が似ていると考えるポイントですね。また、商品によってグレードが違ったり単価が違うという点も似ています。

このようなビジネスモデルの場合、できるだけ商品の完売率を高くすることを目指しつつ単価を上げていくことで売上の最大化を目指すわけですが、ハードの要素は建物や機体を建設・購入した時点ですでにほぼ決まっているので、事業運営上最大のポイントとなるのがプライシングです。

部屋や座席のグレード、サービスによって価格を変えていたり、申し込む(購入する)タイミングによってもホテルや飛行機の価格が変わることは、皆さんもご経験があるのではないでしょうか?

結婚式でも同じように曜日や時間、シーズンによって価格を変えたり、成約するタイミングによって価格(≒値引き)は変わります。値引きの考え方については、以前以下の記事にまとめていますので、参考にリンクを貼っておきます。また、補足でホテル業界のプライシングの考え方をイールドコントロールを言うので、そちらの参考記事もリンク載せておきます。

ただ、プライシングの観点でホテルや飛行機にあって結婚式にないものがあります。

ホテルや飛行機にあって、結婚式にないもの

それが「早割」です。具体的には、早期に申し込むことで価格が安くなるプランやサービスのことです。

例えばANAであれば「旅割75」や「特割」というのがありますし、ホテルでも「早期割引プラン」や「早割ぷらん」などはよく見かけますよね。

ブライダル業界では、ウエディングパークの「早割がある結婚式場」など全くないわけではないのですが、その対象会場数は極めて少なく、「直近になるほど安い」以外には時期別のプライシングロジックはほぼ働いていないように思います。

ホテルや飛行機でこれだけスタンダードなプライシングの考え方であるということは、このビジネスモデルにおいて有用なプライシング、マーケティング戦術であると考えられるのに、結婚式で用いられないのはなぜなのでしょうか?

だいぶ前置きが長くなりましたが、これが今回の記事で一番書きたかったことの概要になります。では次から、このビジネスモデルであるという前提を踏まえて「結婚式で早割を実施することは可能なのか?」これを考えていきます。

なぜ、結婚式に早割はないのか?

247_結婚式場が早割を取り入れにくい3つの理由

結婚式で早割を取り入れにくい理由は3つあると考えられます。

購入(成約)~役務提供(施行)までのリードタイムがそもそも長いのでユーザーニーズが小さい

結婚式の場合、半年から1年ほど先の日取りを抑える人がボリュームゾーン。となると、もし早割を導入しようとすると2~3年以上先の日取りを抑えると安くなる、といったプラン設計になると思います。そうなるの、そもそもそんなニーズあるの?っていう話になってしまいます。

ホテルや飛行機の場合、早割は21日前までなど対象となる期間でも予定を組めるユーザーが一定数いるので成り立ちますが、2~3年先の結婚式場の予約をするとなると、付き合い始めて1か月目でもう押さえておくというくらいの超スピード感になってしまうので、あまり現実的ではないと思います。

つまり、早割を取り入れても、それに刺さるユーザーが少ない、というのが1つ目の理由です。

早割を取り入れたても集客増につながらない(=業績アップに貢献しない)

次に、もし仮に3年以上先の結婚式を申し込んだらお得になる早割プランを作ったとしても、交際中にカップルにそのプランを認知させるのが極めて困難であるというのも理由です。

3年以上先の結婚式を考えているカップル(具体的な結婚の話がまだ出ていない状態)は、そもそもゼクシィやウェディングパークなどのブライダル媒体に接触しないので、媒体経由で認知拡大することが難しく、となると新たな経路を自分たちで構築するか度のフェーズのユーザーをターゲットしているメディアなどにアプローチしなければいけません。そうするとそのコストがプラスでかかりますし、運用工数も増えてしまいます。

つまり、早割を取り入れても、集客アップにつながらずコストが増えてしまう、というのが2つ目の理由です。

結果的に、全体的な単価下落を招く

もし早割を取り入れると、超長期ユーザーに対して今よりも値引きが増える=組単価が下がる、となります。早割を取り入れたとしても直近希望者を安くしてでも獲得する、という方針は変わらないでしょうから、集客は増加しないのに全体的な単価は下がってしまう、という結果になると予想されます。これはブライダル業界全体の施行枠稼働率が低いのも1つの理由です。

プライシングを考える際に稼働率が高いことが前提であれば、早割で最低限の稼働率を確保しておいて残りの枠でアップサイドを狙うということもできますが、結婚式場の場合はそもそもの稼働率が低いので、高く稼ぐプライシングよりもとにかく稼働率を高めるためのプライシングが優先されがちです。これもホテルや飛行機との違いの1つですね。

つまり、早割を取り入れても、集客アップにつながらず組単価が低下し業績が落ちてしまう、というのが3つ目の理由です。

 

もし、結婚式で早割を実現するには?

と、ネガティブな要素をここまで書きましたが、じゃあ早割は意味がないかというとそんなことはないと思います。発想を少し転換するだけで取り入れることは十分に可能だと思いますし、どこの会場も取り入れていない施策だからこそ、うまく実現できた時は差別化要因となりうるんじゃないかと思います。

1.早割適用時に日程を確定させず、早期申込をしてから経過した年数によって特典率がアップしていく仕組みを作る

1つ目が申込の前提を変えてしまう、ということがポイントです。

通常の結婚式場申込では、施行枠の時間をおさえる+申込書の記載+手付金(申込金)の払い込み、この3つがそろって初めて成約として処理している会場が多いと思いますが、早割適用は、早割申込書の記載のみで申込とし(=早期申込)、日程を確定させる申込(=成約)とは別での申し込みとする仕組みを作っちゃいます。

このように通常の成約とは別のポイントで個人情報を取得することで、高価な施行枠を早い段階で埋めてしまうというリスクを抑制することができるだけでなく、申し込んでくれたユーザーにとっても早割メリットがあるような仕組みにすることができます(早期申込から成約までの期間が長ければ長い方が値引き率が高くなるような特典を付けます)。

247_早期申込からの期間が長い方が特典率がアップする

この方法であれば、数年前からユーザーを囲い込むことができるので集客増加につながり広告費を抑制できる分だけ特典率とペイすることができるので、単なる値引きだけではなく業績改善にも貢献できます。

2.若年層が結婚式場に足を運ぶイベントや広報活動を企画・実行する

早割の仕組みを作っても、早期申込者がいないことには始まりません。

例えば、自治体や学校などと連携して地域密着型のイベント(自社会場の商圏範囲くらいまでをカバーできるように)を定期的に開催し、地元の高校生や大学生に対して模擬披露宴を行ったり、レストランであれば新規メニュー試食会などを定期的に開催したりなど、まずは婚礼対象ユーザー以外を集めるような企画を実施しましょう。

そして、そのイベント内で早割適用となる個人情報取得と早期申込を獲得できるような案内と、ウェブ/オフラインの導線も用意しておきます。特典率も高校生や大学生の時に早期申込をして35歳で結婚すると最大半額になるくらい、メリットを大きく取れるようにするといいと思います。

3.長期的なCRM施策を実行する

とはいえ、早割で個人情報を獲得したとしても3年もたてばみんな忘れてしまうので、オンライン/オフラインの両方で早期申込ユーザーとのコミュニケーションを定期的に図っていくことも必要です。
いざ、結婚するタイミングになったときに「結婚式場と言えばここ」と最初に想起してもらうこと、これが目標になります。

4.仲間を作って早割の仕組みを使える会場を増やし、ユーザー認知度を高める

最後に、ここまでの企画を単独会場でやるには相当なパワーと根気がいります。普段とは異なる企画を1から考え、実行する。しかも10年くらいの超長期スパンで見なければいけない。大変です。仲間が欲しい。

一方、ユーザー側の視点に立ってみても早割を申し込んでいずれそれが使える会場が1つであるよりも複数あったほうが喜ばしいはずです。もともと複数会場運営している企業主導で進めるのであればその企業の運営する会場ではどこでも使えるようにすべきですし、それに賛同する会場が増えてくると、若年層からの囲い込みや結婚式に対するマイナスイメージの払しょくにまでつながるといいなと思います。

 

結婚式の早割の可能性についてまとめ

正直なところ、書き始めたときはどっちかなぁと思いながら書いたのですが(だから前置きが長い記事に…)、書きながら何かいけそうだな、カップルや交際中のユーザーをターゲットにした変な恋愛メディアをつくるよりコストもかからないしリターンの確度も高そうだし、いいんじゃないかと思ってきました。あくまで個人的な考えですが、みなさんいかがでしょうか?

この記事を書いた人

市川 貴之

株式会社アナロジー代表。「ブライダル3.0を実現する」をミッションに掲げ、ブライダル事業者向けマーケ支援、ブライダル特化の人材紹介、Leju(フリープランナープラットフォーム)を運営しています。マーケティング、事業企画が得意。

CATEGORY同じカテゴリーの記事