更新日 2021年10月11日

ブライダル業界の利益率はどれくらい?結婚式場PLの読み方と上場企業の決算比較

0057_結婚式場の利益率はどのくらい?上場企業6社比較

アナロジーの市川(@analogy_ichitk)です。

業界的に「結婚式は花束1つで〇万円で高すぎ!」とか「結婚式はぼったくりだ」などとよく言われますが、実際はそんなことはなく低利益率で給与水準も高くないの会社がほとんどです。

今回の記事では上場している結婚式場運営企業の損益計算書(以下、PL)をもとに、営業利益率について比較して、解説します。また、冒頭で簡単なPLの読み方についてもまとめました。

 

結婚式場運営企業の損益計算書(PL)の読み方

損益計算書(PL)とは

損益計算書(以下、PL)とはProfit and Loss Statementの頭文字を取ったもので、一定期間の経営成績を表す決算書のことです。収益、費用、利益について書かれており、どのくらいの収益が出たのか、収益を獲得するのに対してどのくらいの費用を使ったか、収益から費用を引いた利益はいくらか、などを読み取ることができます。

詳しい説明はここでは割愛しますが、会社の家計簿のようなものとイメージいただければいいかと思います。収入がいくらあって、家賃やローンにいくら、食費にいくら、交際費にいくら使って…最終的にいくら残る、これを会社規模でやっているもの、と考えていただければよいでしょう。

57_損益計算書(PL)とは、会社の家計簿のようなもの

結婚式場の売上

結婚式場が顧客から頂いた売上のことで、ポイントとしては以下の通りです。

  • 提供したサービスの種類は問わない:一般的な挙式披露宴だけではなく、二次会や試食、前撮りなども含む
  • 計上タイミングは施行日:実際にお金を頂くタイミングが異なる申込金や半金、残金なども計上日は施行日になる
  • 新郎新婦以外からお金をいただく場合:列席衣装やゲストの送迎費などは契約形態による

結婚式場の原価

原価は結婚式などのサービスを提供するのに直接的にかかる仕入れコストのことです。

結婚式は実にたくさんのアイテムで構成されているので小売りのように仕入れという概念を肌で感じるのは実務上難しいですが、主に食材や飲料の仕入れコストなどはどの会社でも原価で計上しています。

ただし、ウェディングドレスや装花、写真・映像などは提供するサービスを内製して自社の社員が行っているか、提携している外部の会社に委託しているかによって原価で計上するか販売管理費(人件費等)で計上するかは異なるので読み方には注意が必要です。

具体的な例として衣装部門を内製している場合とそうでない場合にどう異なるのかを説明します。

内製している場合

自社のドレススタッフが対応し、自社で保有するドレスをレンタル(またはセル)しているので、ドレスの仕入れ・購入にかかる費用は原価、ドレススタッフの人件費や保管にかかるコストは販売管理費、となります(会計上の方法は厳密には会社によって異なります)。

外部業者と提携している場合

お客様を委託しているドレスショップに送客していることになるので、委託業者からの請求が結婚式場側の仕入れとなります。そのためその全額を原価とすることが多いです。

基本的に、結婚式を実施(お客様に提供)するのに必要なものを仕入れるのにかかるコスト=原価、となるので、売上をある程度相関のある数字となるので、施行組数が減ればその分原価も減りますし、逆に増えればその分原価もかかります。

結婚式場の売上総利益

売上総利益=売上-原価、で計算されます。これはいいですね。

結婚式場の販売管理費

販売管理費とは、会社の販売活動、一般管理活動に付随して発生する費用のことで、売上原価が売上との対応関係に基づき費用計上されるのに対し、販売管理費は売上高との対応関係ではなく、その発生した期間に対応させるべき固定費的な性格に基づく期間費用として計上されます。

ブライダル業界で特に大きな割合を占める販売管理費は「地代家賃・減価償却費」「人件費」「広告宣伝費」です。

地代家賃・減価償却費

地代家賃とは結婚式場を賃貸借契約している場合にかかる家賃のことで、減価償却費とは一時的な支出(結婚式場の建設にかかる費用)を、耐用年数(使える年数)に応じて少しずつ分割して費用化することです。結婚式場を新たに作る場合は2つの方法があります。

まず1つ目は土地ごと買い上げる、という方法です。郊外ゲストハウスや一軒家タイプの会場など、その土地に結婚式場だけを立てる場合はこの方法が可能です。この場合は初期費用が大きく、定率法の場合、初年度から数年間は償却費が重く乗ってきますが、そこを乗り越えるとかなり軽くなります。減価償却費が大きく地代家賃がほぼない場合はこの方法での出店がメインだと言えます。

2つ目の方法は、物件の賃貸借契約で借りる方法です。ビルインタイプの会場や複合商業施設への出店の場合はこちらの方法がとられていることが多いです。この方法の場合、初期費用は敷金と内装費、その他建設費だけなので軽いですが、地代家賃がかかり続けるので、開業数年後に人気が落ちてきたときにかなり苦しくなります。地代家賃比率が高く、減価償却が大きくない場合はこの方法での出店がメインだと言えます。。

どちらの方法での出店が優れている、という単純な話ではないですが、いずれにしろ結婚式場の新規建設・維持にかかる費用は必要であり、それのための金額が「地代家賃・減価償却費」となります。

この費用は出店時に契約で決められるので、業績が伸びようと落ちようと基本的に変わることはありません。そのため、出店当初の業績想定を上回ればその分安く見えるでしょうし、逆に下回ると重くのしかかってきます。

人件費

人件費は、そのままでスタッフの給与や手当にかかる費用のことです。先ほどの原価のところでもふれたように、自社社員に対して支払う給与はこちらに含まれ、外部委託業者に対して支払うものは原価、または外注費(業務委託費)となります。

人件費もほぼ業績と変動せず固定でかかる費用となります。業績変動賞与などを取り入れている会社もあると思いますが、ほぼ固定費と言えます。

広告宣伝費

広告宣伝費は、ゼクシィやみんなのウェディングへの出稿にかかる費用や、ゼクなびなどのエージェントへのフィーなどの総額です。集客用のウェブサイト制作費が当たるかどうかは会社ごとにどのような会計処理をしているかどうかによります(金額によっては固定資産にすることもある)。

集客に必要な費用なので、ある程度業績と相関があります。広告宣伝費増やす→集客が伸びる→業績が上がる、という理屈です。ただ、やみくもに広告費を増やしても出稿方法によっては必ずしも集客が伸びるわけではないので、比例する、まではいかないかと思います。

広告宣伝費を見るときに注意しなければならないのは、広告宣伝費を計上するタイミングと売上が上がるタイミングのタイムラグが大きいことです。今伸びている会社や年末などに新規出店があった会社、逆に閉店や事業縮小があった場合は一時的に売上高広告宣伝費率が高く見えたり低く見えたりしますので、読み方には注意です。

結婚式場の営業利益

営業利益=売上総利益-販売管理費(売上-原価-販売管理費)、で計算されます。ブライダルの事業を通じてどれくらい利益を上げられているか、という数値で、絶対額と営業利益率(営業利益/売上)の両方で見ることが多いです。

57_結婚式場運営企業のPL概要

 

主要な結婚式場運営企業の利益率

概要

57_一般的な結婚式場運営企業のPLイメージ

大まかな各PL数値を図解すると上記のようなイメージです。

見え方は従事者、顧客、他業界経験者によって様々だと思いますが、個人的にはITなどと比べると全然儲かってないなと思います。

さらに上記のうち、原価と販管費はほぼ固定費なので売上を伸ばさないと営業利益が伸びないのもビジネスモデルの難しさの一因ですね。

上場企業の決算状況・利益率

57_ブライダル上場企業のPL比較 ※コロナの影響が出る前の最新決算

コロナの影響を受ける前の2019年度の上場企業決算です。

規模感の違いはあるものの、営業利益率は数%~高くて10%前後であることが分かります。また、原価率の違いも顕著ですね。

このように会社によって会計処理の方法が異なるので決算比較は非常に難しいのですが、出店方式やエリア、スタイルの違いを知っておくとこのような数字になることもわかるようになります。

 

ブライダル企業の経営数値の考察

これらの数字を踏まえて、個人的意見ですが簡単に考察をまとめます(各企業のIRなどに問合せなどをしたわけではないのでその点はご了承ください)。

営業利益率について

見てわかる通り、営業利益率は高くて10%強、それ以外の企業は一桁台でした。

「結婚式はぼったくりだとよく言われる」という点から考えると、その割には決して儲かっているわけではない、というのが正しい見方だと言えるでしょう。最近のITベンチャーなどでは営業利益率で20%~30%の会社も多いのでそれと比較してもかなり低いです。

アイテム単価が高いのにここまで営業利益率が高くない理由は会社によって異なりますが、まとめると原価・販売管理費が大きいからです。売上規模で言えばいずれも数百億円規模なので全業態で見ても決して小さい規模ではないですが、1会場建設するのに数億円から数十億円かかり、1組の施行に携わる仕入れもあり、関わる人数も多いので人件費もかかる、さらにゼクシィの掲載費も高く広告宣伝費もかかる、このように売上を得るまでに多くの費用が掛かるのです。

冒頭の議題の結論で言うと、「確かに単価は高いのでぼったくりみたいに見えるが、運営している企業は決して儲かっているわけではない」という感じですね。

原価率と販売管理費率

ここが一番面白いなと思ったのですが、原価率と販売管理費率の違いが各社の戦略の違いを如実に表していると思います。

原価率が高く販売管理費率が低いツカダは、業績変動に強い企業体質だと思います。原価のほとんどは変動費なので、仮に集客や成約率が落ち込んで売上が落ちたとしても固定比率が低い分利益を確保しやすいだろうと想定されます。

一方、原価率が高くなく販売管理費率が高いエスクリはハイリスクハイリターンな戦略だと思います。固定比率が高いので業績が上振れるとその分だけ利益がどんどん出ますが、逆に売上が落ちた場合は一気に利益が出なくなります。

ブライダル業界のように仕組みレベルの変更に長い時間がかかる業界の場合、企業戦略の変更はそう容易ではありません。もしこれから転職を考えていたり投資を検討されている場合はそういう視点でも見てみるといいかと思います。

各社のシェア

ブライダル業界の市場規模は約1兆2,900億円なので、トップシェアでも5%前後。業界内で圧倒的トップシェアを持つ企業が不在であると言えます。他の業態を見ると数社で寡占状態となっていたり、数十%のシェアを持つ企業がいたりすることが多いですが、ブライダル業界の場合は、

  • シェアを取るためには婚礼組数が必要
  • 婚礼組数を獲得するためにはたくさんの施設が必要
  • たくさんの施設を作るためには多額の資金が必要
  • 多額の資金を獲得するためには建設した結婚式場の長期安定稼働が必要
  • 結婚式場の長期安定稼働には長い時間がかかる

という理屈が働くので、なかなか突き抜けたトップ企業が現れにくいのでしょう。

今後、M&Aや提携などが加速して業界再編が起こればこの構図は変わっていく可能性もありますが、現時点から正攻法でこのように企業を成長させていくのはかなり困難だと思います。

ちなみに、こういう業界だからユーザーにはゼクシィだけが圧倒的に認知され、ゼクシィがトレンドを作る、状況となってしまっているのです。媒体が圧倒的に強いという業界はあまりないので、そういう点でも珍しい業界だと言えるでしょう。

 

結婚式の利益率についてまとめ

少し長めの記事となりましたが、PLの読み方からブライダル業界の経営指標についてまとめました。

会社ごとの特色が出ていて個人的には書いてて面白い内容でしたが、普段あまりこういった数字を見ていない方は、これをきっかけに少しでも興味を持ってもらえると嬉しいです。

この記事を書いた人

市川 貴之

株式会社アナロジー代表。「ブライダル3.0を実現する」をミッションに掲げ、ブライダル事業者向けマーケ支援、ブライダル特化の人材紹介、Leju(フリープランナープラットフォーム)を運営しています。マーケティング、事業企画が得意。

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