アナロジーの市川(@analogy_ichitk)です。
ブライダル市場の縮小、接触チャネルの多様化、保有デバイスの変化、新規サービスの続々の台頭など、近年の結婚集客を取り巻く環境はめまぐるしく変化してきており、従来通りの媒体を使った刈り取り型のマーケティングの手法で思うような成果を得られていない会場も増えてきています。
これまでの集客方法をより高度に運用するだけでなく、抜本的な新しい施策への取り組みの必要性も上がってきていると言えるでしょう。今回の記事では最近話題のCRM施策が結婚式場集客でも使えるのか、その可能性について考えてみます。
目次
CRMを活用したマーケティング施策とは?
CRMとは何か?
CRMとは「Customer Relationship Management」の略語で、簡単に言うと顧客との関係を管理するマネジメント手法のことです。これまでのように企業発信で一方的に売り込むのではなく、顧客接点での情報を統合管理し、顧客との長期的な関係性を構築、製品・サービスの継続的な利用を促すことで収益の拡大を図ります。
歴史的には1990年代前半に米国で誕生した考え方で、アンダーセン・コンサルティング(現在のアクセンチュア)によって1998年に出版された『CRM―顧客はそこにいる』によって広く知られるようになりました。近年では、システムを使った顧客情報一元管理、顧客の分析データの分析をもとにしたメルマガや架電などのアクション、を通じて顧客との関係を深めていく手法として注目を集めています。
この記事では詳しい説明は割愛しますが、興味のある方は「CRMとは」などで検索するといろいろと記事が出てくるので読んでみるといいでしょう。
T&Gの決算説明資料から抜粋
2019年3月期のテイクアンドギヴ・ニーズ(T&G)の決算に関する記事の中でも書きましたが、その中に次のスライドがありました。
マネタイズの方法は直接結婚式ではないですが(BtoBと書いてますね)、顧客情報をデータベースに保持し、そこを起点にメルマガでリレーションを築き、旅行や記念日などを販売していく新たな展開を始めています。これを見たのがきっかけですが、基本的に人生で1度きりの結婚式を扱っているブライダル業界で、顧客と継続的に関係性を築いていくCRMは施策として活用できるのかを考えてみました。
結婚式場の一般的なビジネスモデルとターゲット層
ビジネスモデル
一般的なマーケティング施策との違いをクリアにさせるために、まず簡単なフローを書いておきます。
ターゲット層
今のブライダル業界では結婚することが決まった人がピンポイントでターゲットとなります。ここだけに絞っているので、顧客を育成するとか関係性を気づくとかではなく、いかに効率的に刈り取っていくか、の視点に特化して集客をした方が業績はよくなります(いいか悪いかは置いておいて)。
では、このようなモデル、ターゲットで事業運営をしている会社が多いブライダル業界で、CRMを活用したマーケティング施策はできるのでしょうか?
ブライダル業界で実行しうるCRMを活用したマーケティング施策
ターゲットとなるユーザーと方法ごとに、いくつか考えてみます。
1.結婚する前のユーザーと関係性を築く(長期的な施策としての活用)
未来の新郎新婦になりうる人までターゲットを広げて、そのフェーズのユーザーと関係性を築いておき、婚約していざ結婚式場を探そうと思ったタイミングで一次想起されるようにブランド認知をしておく、というのが趣旨の施策展開になります。
具体的な手法としては、恋愛メディアを作ってユーザー集め、何かしらのインセンティブで会員化してメールアドレスやソーシャルアカウント、電話番号などを獲得し、その連絡先に対してメルマガやオフラインイベントの誘致、LINE@などSNSでのつながりで継続的な関係性を構築する、というのが一般的になるでしょう。
2.既存のオペレーションのサポートとして活用する(短期的な施策での活用)
ターゲットは通常の集客と同じですが、来店予約・ブライダルフェア予約~来館までのユーザーコミュニケーションを活性化することでの来館率を向上させる、成約から挙式までのコミュニケーションを活性することで組単価を向上させる、などの利用方法です。
新たにCRM施策を始めるのであれば、最も取り組みやすいかと思います。既存のオペレーションを大幅に変えることなくプラスアルファの考え方で施策を導入できることと、KPIなどの数値のイメージが持ちやすいことなどが理由です。
具体的な手法としては、予約時、成約時に取得した個人情報をもとに、検討条件や打合せのステップの進捗に合わせて最適化されたメルマガの配信、ユーザーサポートの連絡などを行い、来館率向上、組単価アップ、成約キャンセル率の抑制、を狙うというのが一般的になるでしょう。
3.結婚式後もユーザーと関係性を築く(長期的な施策としての活用)
結婚式後の新郎新婦と継続的にコミュニケーションを取り続け、結婚後の人生フェーズの変化のタイミングで何かしらの販促などに活用する、という施策展開になります。車の購入や子供の教育、不動産の購入などがそうですね。冒頭のT&Gはこのイメージの施策になると思います。
具体的な手法としては、結婚式後のユーザーを自動的(または承認を得て)に会員とし、その連絡先に対してメルマガやオフラインイベントの招待、アニバーサリーイベントへの招待、LINE@などSNSでのつながりで継続的な関係性を構築する、というのが一般的になるでしょう。または他の業界の企業と連携し、DBへのアクセスを提供する代わりに手数料をもらう、という方法も考えられますね。
4.列席する親族やゲストとも関係性を築く(長期的な施策としての活用)
結婚式に列席する親族やゲストともコミュニケーションを取り、結婚式に関わる物販や情報提供などでマネタイズする施策です。他の施策と比べるとターゲットの軸がずれるのでハードルは上がりますが、1施行当たりの列席者数が70名だとすると対象となるユーザー数も70倍になるので、成功したときの事業インパクトは相当大きくなります。最近では列席ゲストの管理もシステムを使っていて個人情報をDBにストックしている会社も多いので、理論上は実行することは可能だと思います。
もし実行するとしたら何が課題になるのか?
ここまで施策展開の可能性についてまとめましたが、実行するにあたって課題になりそうな点も併せて考えてみます。
予算が合わない
もしここまで書いたようなCRM施策をきちんと実行しようとすると
- 顧客情報をきちんと管理できるシステム、DBの導入費、運用費
- リレーションを築ける施策を実行できるMAツールの導入費、運用費
- 運用するスタッフの人件費(または外注費)
これらのコストが掛かります。
すでにシステムを使って管理しているよ!という会社であっても、それを使ってユーザーとコミュニケーションを取れるようになるためには、データの持ち方やDB構造を再設計する必要があります(ほとんどの場合)。なので、この初期投資コストが想像以上に大きく、導入・実施に二の足を踏む企業も多いと思います。
ノウハウがない
次にネックになるのはノウハウです。これまで積極的にCRMを行ってきた会社がブライダル業界に限らずほとんどないので、最初は手探りで始めることになります。そのような状態で始めると、最初はうまく効果が出ません、そうすると施策を止めようか、となってしまうんですね。
また、もし外部の専門家に頼むのであれば、上記のコストに加えてさらにコンサルフィーがかかることになるので、このあたりも導入・実行を難しくしている要因の1つと言えます。
これらの課題を解決して施策を実行するには??
T&Gくらい規模の大きい会社であれば、自社独自でシステム構築から運用まで行うこともできますが、ブライダル業界は中小企業がほとんどなので、そのコストすべてを背負ってかつそのコスト以上のメリットを得ることは相当ハードルが高いのではないかと思います。
なので、誰かがブライダル特化のCRMシステムを構築して、SaaSで売るしかないと思います。
- 従量課金制で導入費を抑える(または半成果報酬制で導入ハードルを下げる)
- 横断的に施策を実行することでブライダルにフィットしたノウハウをストックする
これしかないかな、と。でもこれで業界全体のKPIが改善し、収益性が改善するといいことは多そうですよね。
結婚式場のCRM施策についての考察まとめ
CRM施策の可能性はありそうだと思うものの、単独企業で企画、導入、実行、新党、そしてマネタイズ、投資回収までを行うにはかなりハードルが高そうだなと思いました。多い会場でも1バンケット当たり年間200組がいいとこ上限なのでN数が少ないことが理由ですね。ゲストまで巻き込んだ壮大なCRMシステムを作れれば、可能性はありそうだし市場規模も大きそうなので、考えてみようと思います。