更新日 2022年01月18日

結婚式場のビジネスモデルをBtoCからBtoBに変えることはできるか?

アナロジーの市川(@analogy_ichitk)です。

今回の記事は頭の体操です。結婚式のビジネスモデルを考えてみましょう。あなたは結婚式場で働くスタッフです。お客様(新郎新婦)から結婚式の費用をもらい(これが売上)、ドレスや写真などアイテムのパートナー企業に仕入れ分の費用を支払う。そこから人件費や会場の家賃や広告宣伝費などを支払った残りが会場の利益になる。ここまでは当たり前ですね。では、これをベースに発想の転換をしてみたいと思います。

 

一般的な結婚式場のビジネスモデル

一般的な結婚式場はBtoCモデルです。

321_一般的な結婚式場のビジネスモデル
  • 売上は新郎新婦からもらうお金
  • 原価は仕入れ業者(=ドレスやフラワーなどのパートナー)へ支払うお金
  • 販売管理費は結婚式に直接は関わらない人件費や家賃、広告宣伝費など
  • 利益(営業利益)は売上から原価と販売管理費を引いて残った金額

このモデルで売上の対象となる顧客は個人(Customer)なので、BtoCモデルになります。それぞれの立場での売上と原価、利益をグラフにすると以下のようになります。

新郎新婦から結婚式場へは支払いですが、結婚式場から見るとそれは売上です。また、結婚式場の立場で見るとパートナーへの支払いは原価ですが、パートナーの立場だと売上になります。

さて、ここまで簡単に一般的なモデルについておさらいしました。では、これを踏まえてこのモデルの転換について考えてみます。

 

今のBtoCビジネスモデルの問題点はどこにある?

と、その前に、今のBtoBモデルだと何かしらの問題点があるから転換してみたらどうかと考えるわけなので、ビジネスモデルに起因する構造的な問題点についても洗い出しておきます。

問題点①:総額が高く見えやすく、ボッタくりと感じやすくなる

結婚式の費用は本当は各アイテムごとの金額で構成されているのですが(料理=80万円、飲料=15万円、挙式=12万円…)、お客様から見た場合の金額はあくまで総額でみられてしまいます。350万円!どーん!という感じです。

そうすると、一つ一つのアイテム単価が仮に合理的に設定されていたとしても、普段の買い物とは桁が2つほど変わってくるので圧倒的に高い買い物、という印象を持ちやすく、人によっては高すぎでは?ぼったくりでは?と思われてしまうことに繋がります。

問題点②:自分たちで選んでいる感が生まれにくい、選ばされている感が出てしまう

新郎新婦が打合せで結婚式の内容を決めていくとき、ほとんどの場合は結婚式場のプランナーが提示する選択肢の中から選ぶ、という作業になります。自分たちでどの業者にするか選んで決める、ということはほとんどありません(持込料がかかる場合が多いですし)。

選ぶだけの方が正直なところ楽と言えば楽なのですが、どうしても選んでいるより選ばされている感を感じてしま人も出てきてしまいます。

---ここまでが新郎新婦にとっての課題です。次は結婚式場、パートナー関連の課題です。

問題点③:パートナー企業どうしの自由競争原理が働きにくい

結婚式場⇔パートナー企業の関係はほぼ固定です。この結婚式場であればドレスはココ、花はココ、といった具合いに式場ごとにアイテム別のパートナーは決まっていて、それ以外を希望したら持込み扱いになることがほとんどです。これは毎回新しいパートナーとお客様ごとに受発注をしていてはオペレーションが契約が煩雑化するから、というのが主な理由ですね(独占契約でマージンが云々という話もありますが、実務上はオペレーション煩雑化の影響が大きい)。

こうなると、パートナー企業がお客様に選んでもらおうと努力する必要があまりなくなります。というのも、結婚式場が受注すればほぼ自動で自分の会社の受注も決まってしまうからです(悪い意味で)。そうすると、自由競争が働きにくく、付加価値創造よりもコストカットの意識の方が強くなりがちになってしまいます。

問題点④:結婚式場の業績に連動してパートナーの売上が決まってしまう

パートナーが業績を上げようとしたときにできることが極めて限られてしまっていることも問題点の1つです。そのため、結婚式場の業績が振るわなくなるとそれに伴ってパートナー企業の業績も落ちていきます。もちろん、1会場専属ということはないでしょうが、少なくとも大きな影響は受けるでしょう。

これらの課題をBtoBモデルに変換して解決できるか!?これが今回の記事のテーマです。

結婚式場をBtoBモデルに変換してみよう

321_結婚式場のビジネスモデルをBtoB変換すると…?

先に結論から書きますが、上の図のような構造に変換できないかなぁと最近思っています。少し補足で説明すると具体的な変更点は下記のような点です。

  • パートナーとユーザーが直接つながり売買をするようになる
  • その際、結婚式場は「結婚式を挙げる人=パートナー企業にとっての顧客」を集めてくるプラットフォームとしての位置づけになる
  • 結婚式場の売上はパートナー企業の売上の●%分、といった販売手数料収入となる

成約後のアイテムフェアのような催しを定期的に開催し、アイテム業者の出入りを自由してそこで直接ユーザーと契約をしてもらう、という形になります。他の業界ですが、日本和装のビジネスモデルとかなり近いですね。

このモデルだと、結婚式場の売上は「結婚式アイテム業者からの手数料」となり、法人から売上を立てるモデルになるのでBtoBになるんですね。ちなみに、全体の取りまとめのプロデュースは?プランニングは?と思われる方もいるかもしれませんが、それもアイテム業者の中の1つに含まれるイメージでいます。プランナーも誰にするか選べるようになるわけです。

ユーザーにとっては「結婚式はハコ(=結婚式場)から選ぶ」という流れはこれまでと変わりませんが、選んでから先の流れが大きく変わることになります。会場によって決められたものから選ぶのではなく、その会場でどういう結婚式を作るのか?というのをかなり自由度高く決められるようになります。

321_BtoBバージョンの売上原価利益の見え方

結婚式場のビジネスモデルがBtoBになるメリットとデメリット

では、もし仮にこのようなビジネスモデル転換が起こったとしたら、現在の一般的なモデルと比べてどのようなメリット・デメリットがあるかを考えてみます。

メリット①:結婚式場選びとプロデューサー含めたアイテム選びを分けて考えることができる

これはユーザーにとって大きなメリットとなるはずです。この会場がいいけどドレスはあっちがいい!とか、料理は和食がいい!といった会場とコンテンツの不整合というのはよく起こっている事象ですが、BtoBモデルの自由入札制度が実現すれば、会場選びとアイテム選びを別々に考えることができます。

メリット②:マージンを乗せているから結婚式って高いんだよ、という認識が払しょくされる

このモデルになると、そもそも結婚式場⇔結婚式アイテム企業の独占販売契約は結びえないので癒着や多大なマージンを乗せた価格でユーザーに提供する、ということは起こらなくなります。

  • 「結婚式ってなんでこんなに高いのよ!選びたいドレスも選べないのに…」
  • 「それは結婚式場がドレスやと専属契約していて、マージンを乗せているからだよ」
  • 「えええ、そんなことになっているなんて…」

このようなユーザー側の認識も起こらなくなります(常識が変わっていくためには、しばらく時間かかると思いますけどね)。

メリット③:結婚式場もアイテム企業も本当にユーザーから支持されるサービスだけが生き残る、適正な競争環境が作られる

このモデルに転換した場合、結婚式場というフィールドでアイテム業者同士の競争が生まれるので、ユーザーが本当に認めた(=購入しようと意思決定した)商品だけが選ばれるようになっていきます。そうすると、これまで人気の結婚式場にぶら下がって生きていた企業などは淘汰されていき、自然とアイテムの質とコスト面の両方で優れたブランドだけが残るようになるので、それはユーザーにとって意味は大きいと思います。

メリット④:結婚式場運営にかかる固定費を大幅に削減できる

特に人件費は施設維持にかかるコストだけでそれ以外はほとんどかからなくなります。プランナーを含めて外部の人になるからです。

デメリット①:ユーザーの負担が明らかに増える

今のモデルのいいところは「会場のプランナーから提示されたものから選びさえすれば結婚式の準備を完了することができる」という点です。これはユーザーごとにメリットだったりでメリットだったりするわけですが、もしこのようなモデルになったらユーザーは「どの商品を選択するかを必ず自分で決めなければいけない」ということになります。
これ、好きな人にとってはやりがいしか感じないですが、そんなにこだわりがなくて、かつ結婚式が初めての人にとってはかなりハードルが高くなります。そのため、ユーザーの心理的・体力的な負担は大きくなると思います。

デメリット②:今存在していて投資回収できていない会場はほぼ回収不能になる

もし今の状態からガラッとビジネスモデルが変わった場合、結婚式場のコストは減るのですが(原価がなくなり販管費も減るから)、売上も大幅に落ちるでしょう。数値のシミュレートをしていないので手数料率を何%にしたら損益分岐を超えるのかはパッと出てこないのですが、PLは今より格段に小さくなるはずです。
BSは変わらないですから、特に多額の借入をして結婚式場を建設している企業は返済計画が大きく変わってしまいます。現場の方だとあまりピンとこないかもしれませんが、銀行などからいきなり返済迫られるとか投資回収計画が破綻するとか、そういったことが普通に起こりそうです。

デメリット③:結局、手数料率をけっこう高くしないと結婚式場を維持できないかもしれない

これは書いていて思いました。ただあんまり手数料率が高すぎると、結局アイテム業者もユーザーに早々の利益を乗せた金額で提案しないといけないので、そうなるとメリット②は結局成し遂げられないかもしれない…。

321_BtoBモデルに変換したときのメリット・デメリット

自分の結婚式の雰囲気のイメージはある程度固まっているから会場は大事、でもやっぱりその中でアイテムにもこだわって自分らしさ出したい!という人にオススメかなと思います。顕在化はしていないけど、一定割合でこういう人はいるんじゃないでしょうか。

実現させるためにはどんなことが必要か?

先ほどのデメリットでも挙げましたが、既に存在している結婚式場のビジネスモデルをBtoBモデルに転換する、というのは物理的にも財政的にも相当難しいと思います。となると、もしこのモデルを実現させようとするなら、こういったモデル専用の結婚式場を新たに作ることが必要になるでしょう。それ専用にPLも組んで運営することを前提として。

とはいえ、会場内装飾はパートナーの提案範疇になるので、めちゃめちゃこだわった造りとかにする必要はなく、できるだけ低コストでシンプルなデザインとします。かつ、このブランドはどこも同じような作りになっていればOKなので、通常の結婚式場を作るのに比べると建築コストを抑えて作ることになります。

  1. 投資をしてくれる(お金持っている)会社が、
  2. 結婚式場と結婚式アイテム企業のデータベースを活用して
  3. このモデルの結婚式場をつくる

こんな順番で実現していくことになると思います。個人的にはchooleとか両方のデータベース持っていそうなので、相性よさそうだなと思いますが、どうなんでしょうね。

また、こういったコンセプトの会場だと既存の結婚式場と競争原理がまるっきり変わってくるので、「作ったはいいけどどうやって集客すんねん」っていうのはまた今度考えます(笑)汎用性の高いイケてるハコをつくって集客上手な会場が勝つゲーム。プラットフォーマーになるための戦略が必要になりますね。

 

結婚式場のビジネスモデルについてまとめ

お客様からお金をもらって、パートナーさんに仕入れ分の金を払う。当たり前だと思っていることをちょっと別の角度から考えてみるとどんなことが起こるかを考えた記事でした。書いてみた感想としては、このモデルにすることが今の一般的なユーザーの常識を大きくは崩さずにでもデメリットは解決していけそうだなと思ったので、少しずつでも変わっていかないかなぁとは思いましたが、今の結婚式場経営企業に多大なるダメージを与えることにもなるので、実現は難しそうだなぁと言った感じですね。もし自分の会社で力着いたら考えてみようかと思います。

この記事を書いた人

市川 貴之

株式会社アナロジー代表。「ブライダル3.0を実現する」をミッションに掲げ、ブライダル事業者向けマーケ支援、ブライダル特化の人材紹介、Leju(フリープランナープラットフォーム)を運営しています。マーケティング、事業企画が得意。

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