※寄稿記事です。
式場決定をしたあとに行う打合せの段階で、担当プランナーに対してのクレームは、少なからずどの会場でも課題として抱えているのではないでしょうか。
結婚式は、新郎新婦にとっては一生の想い出に残るお祝い事のイベントであることに加えて、価格も300万円~400万円と高価な買い物なのでミスなどはないと思っているでしょうし、会場としても、新郎新婦にマイナス感情・印象を与えたくはないと思います。
何よりも、こうしたケースの対応を誤ると会場への不信感につながり、最悪のケースだとキャンセルにつながる可能性も大きくなるので、しっかりとした対応をしたいところです。そこで今回の記事では、打合せクレームについて、起こる原因と対応策、予防策についてまとめました。現役プランナーの方や会場管理職の方にとって参考になればと思います。
目次
よく起こる打合せクレームの概要とは?
打合せクレームでよく聞くキーワードとして「自分たちを理解してくれなかった」という声が挙げられると思います。これは、担当プランナーが新郎新婦を理解していないと感じられているときに発生してしまうクレームです。
結婚式の打合せは、新郎新婦は、「一生に一度の想い出に残るもの」「300万円という高額な買い物」「婚礼というお祝い事イベント」と期待値がとても高い状態です。そのため、細かなミスはもちろんなく、プランナーは一組一組のお客様と親身に打合せをしてくれるものだと想像をしていて、打合せの時間の中でその期待が下がると想像している人は多くないでしょう。そのため、会場・プランナーに対して新郎新婦は、「自分たちのことを理解してくれている」「だからこそイメージ通りの結婚式が出来るはず」「不安なく、楽しく準備が出来るはず」と期待をしていると思います。
その一方で会場側のプランナーは、毎月の平均担当組数は5組、打合せ自体は約5カ月ほど前からスタートする会場がほとんどなので、実質常に担当している組数は25組ほど。多いプランナーだと40組近くになる人もいれば、一貫性であればそれに加えて新規接客時の顧客対応も業務として扱っているはずです。加えて、土日の婚礼準備や当日運営と、非常に稼働・負担の多い環境になっていることが多いのではないでしょうか。さらに、式場施設を自社運営している会場の場合、会場運営をしていくための必要な利益=売上・人件費の予算も抱えているはずなので、プランナー個人へも目標売上・総労働時間の制約は少なからずあるはずです。その中で担当顧客を30組近くディレクションしていくのは至難の業ではないかと、個人的には思います。
この新郎新婦側が抱いている結婚式・プランナーへのイメージと、会場側・プランナーで捉えている婚礼業務に大きく乖離があることが、結婚式打合せクレームの前提にあります。
看護師のように、人員不足や現場環境の大変さといったことがメディアで露出していればまた違うのでしょうが、ウエディングプランナーがメディア露出をするときは、「ステキなプランニング」「トレンドのコーディネートが出来る」といった華やかな露出が主なので、先に書いたような担当組数の多さなどを理解している新郎新婦はなかなかいないと思います。
- 自分たちを理解してくれなかった
- 営業感が強く、アイテムを押し売りされている印象が強かった
- その演出、持込は出来ませんとNOを言われるばかりだった
- 何度も同じことを聞かれた、伝えたことが伝わっていなかった
こうしたプランナーの接客に起因するものが多く挙げられていると思います。
打合せ接客クレームはなぜ起こるのか?
よくクレームを起こす人(会場)とそうでない人(会場)がいるのも事実です。こうした打合せ接客クレームが発生するには、いくつかの原因があります。
接客全般におけるプランナーのスキルが不足している
「自分たちの想いをくみ取ってもらえなかった」「営業感が強く、アイテムを押し売りされている印象が強かった」というクレームは、担当しているプランナーの、ヒアリング力・コミュニケーション力(リスク察知力)、マネーコントロール力が不足していると発生します。
打合せを開始する段階では、新郎新婦の家族構成・家族、親族との関係性・出身地や血液型・職業・新郎新婦の出会い・金銭感覚や貯蓄、この先の支出計画・趣味趣向・意思決定は新郎新婦のどちらなのかなどのパーソナル情報を多く引き出しておくことが大切なポイントです。担当プランナーはそこから、結婚式だけではなく、新郎新婦の価値観を把握することが出来、不安・不満を相談ベースで話をしてもらえることが多いので、いきなりクレームになる、という事態にほとんどならないと思います。初対面の人を相手に、そうした込み入った話を出来る人は、結婚式の接客でなくともなかなかいないと思うので、ここはスキルが必要な部分です。
その上でゲスト人数、商品、商品単価の掛け算と足し算を頭で計算をしながら、おおよその総額を想定しながら打合せを行い、大幅に上がってしまうのであれば「当初の想定より人数様が多いのでお見積り金額も高くなりそうですね」「ここの部分で30万円かかってしまいそうですが、大丈夫ですか?」と1つ1つ確認やフォローを行いながら打合せが出来るので、営業感を強く感じさせてしまったり、アイテムを押し売りされたというクレームになってしまう可能性を減らすことができます。
プランナーの提案力が不足している
「その演出、持込は出来ませんとNOを言われるばかりだった」というクレームは、プランナーのスキル不足(接客編)で書いたことの応用編で、提案力不足を解消できれば解決が出来るのではないかと思います。
例えば、新郎新婦が「愛犬と一緒にメインテーブルで、ゲストからおめでとうと言われることが夢だった」という要望があったとします。会場側としては、メインテーブルのある披露宴会場内では料理・ドリンク提供があるため、衛生的なリスクを想定して、「犬を披露宴会場に持ち込む」ということを断るという対応の会場が多いのではないかと思います。対応としては決して間違っていない対応だと思いますが、新郎新婦の夢は叶わないわけなので、これだけで大きくクレームになるという可能性は低いですが、「ドレスの持込も出来ません」「席次表の持込みも出来ません」と出来ないことが続いていくと、「NOと言われるばかりだった」というクレームになってしまう可能性が高くなります。
担当プランナーのヒアリング力に加えて、提案力が不足しているとこのクレームは発生してしまいます。衛生上・会場運営上、新郎新婦の要望に応えることが出来ない場合に必要なのは、新郎新婦が「なぜその演出をやりたいと考えているのか」という価値観を知り、それを再現できる方法をいくつも検討出来るかどうかいう、ヒアリング力と提案力だと思います。
今回の例えでいえば「なぜ愛犬にそこまでこだわりを持っているのか・なぜ、披露宴会場内にこだわっているのか」という深層心理を、新郎新婦と担当プランナーが同じ言葉で理解できておくことで、代替案となる演出の提案を行うことが出来ます。「愛犬と家族同様に育ってきたので、ゲストへもそれを何とか見せたい」という価値観なのか、「とにかく人と違ったことをして目立ちたい」という価値観なのかにもよって、提案する内容は大きく異なるのではないでしょうか。
そもそもの業務オペレーションに課題がある
「何度も同じことを聞かれた、伝えたことが伝わっていなかった」というクレームは、担当プランナーの事務処理能力・顧客管理力が不足していることに加え、打合せオペレーションにも問題があると思います。
事務処理能力・顧客管理力に関しては、打合せ中のメモの取り方、履歴の残し方、日々のタスク作業の効率化という、ビジネス力を日々備えていくことでしか解決ができませんが、担当プランナー、アイテム担当者の情報共有・連携に関しては、打合せオペレーションに問題があると思います。
結婚式準備で打合せするアイテムは、料理・衣装・装花・写真・映像・演出・ペーパーアイテムと多岐に渡ります。すべてのアイテムの打合せはプランナーが行っていることはフリープランナーを除きほとんどなく、スタイリストやフローリスト、司会者などそれぞれの専門スタッフが行うことがほとんどです。パートナー企業と提携している場合は専門業者の担当者が入って新郎新婦と打合せを行うケースもあります。
アイテムごと打合せを行う専門スタッフ(内部、外部問わず)は、見積り総額やその他アイテムをなぜ選んでいるのかをを把握しながらではなく自分の担当アイテムの説明・営業をしますので、どのアイテムを受注したから総額がいくらになってしまう、高くなりすぎると意識することはほとんどありません。担当者の立場であればそのアイテムでしか売上を作ることが出来ないので、各担当者・担当業者毎に高単価商品を積極的に受注していきたいところでしょう。そしてその場でキャッチアップできた新郎新婦情報は、担当プランナーであれば把握をしていると想定をして、積極的に引継ぎをしない、ということもありえます。
打合せの順番と日程調整のルールがあいまいで、アイテム毎の打合せにプランナーが同席をすることもなくかつ情報を集約する機会もないようなオペレーションだと、全アイテムの打合せ終了後に初めて、見積りの総額がわかることになります。担当プランナーも「このアイテムを選んだんだ、あーこんなに見積り上がったんだ・・・」と初めてそのタイミングで把握することになります。各アイテム担当者との細かな引継ぎもなく、見積りを提示するだけになってしまうと「何度も同じことを聞かれた、伝えたことが伝わっていなかった」というクレームが発生し、これは打合せオペレーションが問題であると言えるでしょう。
打合せ接客クレームが起こったときの対処法
1.初期対応
初期対応は担当の打合せプランナーが行うことがオススメです。既にお客様とコミュニケーションが取れていて、性格・金銭感覚・価値観が分かっているので、新郎新婦の本音を聞き出しやすいです(ただし、プランナーのスキル不足が原因ではない場合に限る)。
クレーム対応で最も重要なことは、見積りクレームなどに限らず、新郎新婦が「何に対して」クレームを言っていて、「どのような対応を求めているか」を明確にキャッチアップすることです。そのためにも、初期対応はこのポイントを聞き出せる担当プランナーがいいでしょう。
2.本格的なクレーム対応の前の準備
次に具体的なクレーム対応に入る前の事前準備です。この事前準備を行うか行わないかで、クレームをケースクローズできるかできないかが決まるといっても過言ではありません。事前準備は、担当プランナー、管理職、可能であればクレーム発生段階での担当者(衣装・装花などの各担当者)で行うことがいいでしょう。管理職を中心に、新郎新婦の時系列(来館予約~打合せ日時の確認、会場とのメール・電話のやり取り、選んでいるアイテム、意思決定をしている理由)、新郎新婦のパーソナルを理解・把握(コミュニケーションの中でプランナーが把握できている、性格・価値観・金銭感覚)のすべてを確認します。特に、新郎新婦のパーソナル理解・把握部分では、出身地や血液型・家族構成・職業・出会いといった担当プランナーだけでは気づくことにできなかった視点も持っておくことが重要です。
3、具体的なクレーム対応
具体的なクレーム対応の方法としては、謝罪、返金、担当プランナーの変更が挙げられます。
具体的なクレーム対応時のポイントになるのが、「何に対して」クレームを言っているかを、関係者間で明確にしておくことです。
- 自分たちの気持ちを理解してもらえないまま準備を進めて不安だから、キャンセルしよう
- 自分たちの気持ちを理解してもらえないまま準備を進めて不安だから、その分返金してもらえないだろうか
- 自分たちの気持ちを理解してもらえないまま準備を進めて、当日もイメージ通りになるのだろうか
- 自分たちの気持ちを理解してもらえないまま準備を進めて不安だから、、何か対応してもらえないだろうか
- なんで正しい情報を教えてくれないんだろう
- この先も信頼していい会場なのだろうか
表向きはクレーム同じような打合せが不安・不満、というクレームであったとしても、実はこのように思っていた、というパターンは上記のように様々です。
それを踏まえたうえで謝罪で大丈夫そうであればまずは謝罪から、というのもありでしょう。謝罪のみの場合は、会場側のコストは対応者の時間だけですので、クレーム対応としてはもっともいい形を言えます(結婚式場目線で)。ただ、「この度は、お二人の想いを汲み取ることが出来ずに申し訳ございませんでした」と謝罪をされて納得をしてくれるケースはそんなに多くないですが…。
ちなみに、謝罪をする場合は、
- 会場の担当者または責任者として「どの段階」で「どのように対応すべきだった」と考えているか
- 今後は同じようなことが起こらないようにどうしていくか
- お二人に対して、これから先または結婚式当日にこのようなことをすることをお約束します
このような流れで謝罪を結べるとベストでしょう。
返金の場合も基本的な考え方はやお客様にお伝えしていく流れは謝罪の場合とほぼ同じですが、
- どの観点でこちら側に不手際は至らない点があったのか
- その点に関してはこちら側で金銭的な負担をさせていただく
この2つのポイントを押さえた上で、対応すべきだった事象と返金金額(返金アイテム)を明確に結び付けて謝罪・返金を行いことが大切です。そして最後に「こんな当日にすることをお約束します」と結ぶといいでしょう。この先も信頼していい会場なんだろうか?と思っている新郎新婦に、「今回ご意見をいただきましたので、ドレス1着分●●円をプレゼントさせていただきます」とだけただ言われても、なんだか気持ちが晴れ晴れとしないですし、逆に不信感につながります。
最後に、担当プランナーの変更も基本的な考え方やお客様にお伝えしていく流れは謝罪の場合とほぼ同じですが、
- どの観点でこちら側に不手際は至らない点があったのか
- その点に関しては担当プランナーを変更させていただくことで、今後のお打合せを安心して行っていただく
この2つのポイントを押さえた上で、対応すべきだった事象と今後は担当プランナーが変わることでそこが払しょくされることを明確に結び付けて謝罪することが大切です。そして最後に「こんな当日にすることをお約束します」と結ぶといいでしょう。 ただし、担当プランナーを変更する場合、”どの観点で不手際があったか”の内容を、新郎新婦と会場側で明確にしていく際に、担当プランナーの発言・行動がこうであったら安心して相談することが出来ていた、というポジティブな解決策を提案していく、最終手段として使った方がいいでしょう。
新郎新婦の性格・金銭感覚・価値観が分かっている状態の担当プランナーを打合せ途中で変更することは、もう一度別のスタッフが理解・把握をし直すという意味で、新郎新婦、会場側にとっても有意義な時間とは言えません。可能であれば、その課題点を抽出した上で、「今後のお打合せの中で改善をして参ります」と結べることがベストだと思います。 ただ、結婚式の打合せという幸せなイメージを持つ時間の中で、不審・不安に感じた原因が、担当プランナーの発言・言動にあるという場合には、担当プランナーを変更することで、1度打合せを仕切りなおしましょう、という結び方も必要だと思います。 その場合は、クレーム対応に入る事前準備と同じ流れで、後任プランナーへの情報共有(引継ぎ)が必須となります。
打合せ接客クレームを起こさないためにすべきこと
プランナーのスキルアップ
プランナーのコミュニケーション力をアップさせるには、
- 初めての打合せでカウンセリングを実施させる
- ケウンセリングシートは共通ツールを活用する
- カウンセリングに関しては、プランナー基礎の最重要ポイントとし、卒業検定などを実施する
上記実施をオススメします。クレームが発生するということは、新郎新婦の本音を聞き出すことが出来ていないプランナー、ということになりますので、何度も何度も、この部分はフォローアップを実施した方がよさそうです。
特に新郎新婦の深層心理を聞き出すためには、「なんで新婦様は黄色が好きなの?なんでその職業をお選びになったの?」といった「なんで?」という質問を投げかけたり、打合せなどで繰り返し実施をすることで、「なんで?」と思わせることを身に着けさせることができます。これに加えて、「その演出を諦めた場合の代替え案は?」などと、座学というよりかは、ブレストで会話をしていける環境でスキルアップをさせていくといいでしょう。
オペレーションの課題解決
先ほど記載のオペレーションが見積りクレームの主たる原因の場合、担当プランナーが、各アイテム担当者へ新郎新婦の価値観・予算感・現在の見積り状況や新郎新婦の中での該当アイテムの優位性といった情報共有をきちんと行うことと、各アイテムでの打合せで出てきたアイテム決定理由を、各アイテム担当からプランナーが情報共有を受けるということがポイントとなります。それを実現するための情報共有フローの再構築や、会議体の設定、もう少し大きい話だとパートナー企業との情報共有システムの導入などが具体的な再発防止策といえます。
各アイテムを選んでいくには理由が必ずあり、その理由がパーティー全体のイメージ、見積りが上がっていく根拠になるので、例えば「装花担当より、ご新婦様のご意向でかすみ草をお使いになると伺っています。なので装花は想定よりも高いお見積りになっていますね」などと補足説明をいれながら丁寧な見積り提示を行うことで、「なんでこんなに上がっているの?」とう疑問を持たれる可能性は抑えられると思います。
打合せの接客起因のクレーム対応まとめ
業界全体の課題としてプランナーの人員不足がある一方で、新郎新婦の期待値が高い商材であることには変わらない以上、このクレームが完全に消滅することはないと思います。人員不足をフリープランナーで補う、接客ツールをコンパクトにしていくサービスも増えてきていますが、基礎的な部分では、クレームが発生の前から、新郎新婦のことをどこまで理解し、共感をもって接客を出来るかという点をしっかりと対策していくことで、クレームをなくしていく重要なポイントだと思います。