アナロジーの市川(@analogy_ichitk)です。
ブライダル業界の2023年の振り返りと、それを踏まえて2024年は何をしたらいいのだろう?というのを書きます。
2023年のブライダル業界の振り返り
- コロナ控えの反動特需は終了し、全体で見れば微減傾向が進む。都市部はまだしも地方は厳しい
- 国内需要だけでなくインバウンド(特にアジア圏)に取り組む企業が増えそう
- フリーランスは増加する、どのように連携するかは企業によって考え方が変わる
- 式場集客はマルチチャネル対応は必須で、コアになるサービスコンセプトの設計が必須=広義での自社集客
- 結婚式は多様化する、フォトウェディングは引き続き需要大きそう
大枠としてはこんな予想を私はしていましたが、みなさんはこの1年振り返ってみてどうでしたでしょうか?
個人的にはけっこう予想は当たったかなーと思っていますが、いろいろな人とお話しさせていただくと立場や事業モデルによって起こっている事象も感じていることも本当に様々なので、全体を精緻に把握するのが難しくなってきている感はありますね。
顧客マーケットの動き
1.新規来館は2019年比で都市部で9割、地方で7割、といったところ。
・ただし、全体で見るとこれくらいの数字であって、人気式場とそうでない式場で二極化の構造は顕著に
2.施行はコロナ延期組は完全に終わり。2022年後半~2023年中の新規受注がそのまま業績に反映
・上場企業はIR資料の中の「受注残」の推移で状況はわかるので時間あれば見てみてください、これもやはり二極化している印象ではある
3.フォトウェディングは堅調に伸び
・ウェディングパークのレポートでもあるように(プレスリリースはこちら)まだ伸びていて、価格帯やコンセプトの幅も広がりがある
・ただし、需要の伸び以上に供給者側の増加スピードの方が速い印象で、競争は前年より激化
4.フリープランナーやオーダーメイド型プロデュースはさらに増えた、依頼している人も増えていそう
・これはInstagramを見てて思うだけなので完全に感覚。
・ただし、人気の人とそうでない人の二極化は式場のそれ以上にはっきりしていそう。事例を持っている分先行者有利ではあるものの、行動量が結果に直結している印象ではある
5.完全なし婚層の割合はそんなに変わってなさそう
20%~25%の間で変わらず
業界人材関連
1.式場運営企業の人員体制
・昨年までは人材不足のところも多かったが、深刻さは改善しつつある印象。23新卒&未経験中途を大量採用した企業も少なくない
・ただし人員構成バランスは、若手未経験が多く、中間が少なく、ベテランが多いという砂時計型になっているので、マネジメント難易度は上がっている
・そのため中間層の経験者中途採用を強化するがどこも苦戦。20代後半のプランナー経験者は人材CAやSaaSのCS職など他業界へ転職
・後述する業務委託契約でのプランナー稼働は増加し、それに関連するサービスも増加
2.フリープランナーの増加
・フリープランナーとして独立する人もいるけど、それ以上にプランナーもできるフリーランスとして独立する人が増えた印象
・デザイン、秘書、データ入力、飲食、など平日に自分のやりたいことや仕事をやって週末にプランナーをして稼ぐ、というモデル
・プロデュースブランドはそもそも供給過多なのと、Instagram一本足打法ではもう集客出来ないので、そこもハードルを上げている一因
・早ければ2024年中、遅くても2025年くらいから、フリーランスから正社員に戻ろうとする人が増えそう。
3.業務委託契約での稼働の増加
・式場の新規・打合せ業務を委託契約での稼働は前年よりも明らかに増加し、管理者以外に正社員がいない式場もある
・円滑な稼働を実現するためのノウハウも少しずつ世に出始めており、個人/企業の規模問わず仲介サービスも増加
・ただ、2024年もこのペースで増え続けるか?と言われる微妙
・その理由は、圧倒的なプランナー需要過多から供給過剰になりつつあるため式場側が誰に依頼するかを選び始めているから
・Wedding Me Worksというプランナーと式場案件のマッチングサービスを運営していて登録者数&登録案件数はたぶん業界最大級なので、仕事探してるプランナーの方・人材不足の式場担当者の方は是非ご相談ください!
4.運営受託案件、M&Aの増加
・結婚式場の運営受託案件は昨年に続き増加、特にホテルが多いかなぁって印象
・ただ、全部うまくいっているかと言うと微妙、現場レベルだとけっこう大変そう
・水面下での式場売却や事業売却の交渉も進んでいるのもある(らしい)
・建物のオーナー、運営事業者、そこで働く人、この3つが全部違う式場運営も普通になっていきそう
集客
1.媒体集客だけの限界、マルチチャネル化
・ゼクシィだけ頑張るとか媒体最適化だけで集客できる時代は完全に終わっている。昨年の振り返りから引き続きですけど…。
・複数のチャネル運営が必須(メディア活用、検索(HP)、SNS(HP)、SNS(個人)、他)
2.ブライダルイベントが爆増
・ゼクシィフェスタなど媒体主催のイベントは引き続き定期開催されている
・これに加えて、式場主催のウェディングイベントの開催数が2023年は爆増
・集客チャネルはプラコレ、ウェディングニュース、Instagram広告、主催者でよく見かけたなーと思うのはバリューマネジメント、ベストブライダル、T&G、BP、など。2023年後半は地方でもプラコレ主催の複数社出店のイベントも多かった
・式場はイベントをやった方がいいか?についてはこちらの記事を参考ください。僕の結論は、絶対数は増えるけど効率は落ちるのでやった方がいいかはケースバイケース、です。(参考記事①、参考記事②)
3.Instagramの限界、TikTokの台頭
・今の時代どこの式場や個人もInstagramをやっているので「これをやっておけば集客できる!」SNSから、「やってないと集客でマイナスになる」SNSになってしまっている。なのでInstagramやってるだけだと集客できません。やること増えて大変。
・その一方、TikTokを始めるブライダルアカウントはかなり増え、集客にもかなり影響を与えている
・TikTokでリーチ→Instagramへ誘導→エンゲージメント醸成→CV、このルートが今だと王道っぽい
・市川的ブライダルの要チェックアカウントはこちら:はなよめになるチャンネル、マリエールコート、ベル・カーサ、アールベルアンジェ、グランディエール
4.自社集客の目的の変化
・SNSにしろSEOにしろ、自社でコンテンツを作り発信する目的は、これまではリーチ拡大だったが、最近はエンゲージメント獲得にも使うケースが増えてきている
・ターゲットKWを決めて、上位表示されるようにSEO用の装飾を施された記事を量産するのではなく、自社だからこそかけるコンテンツを丁寧に作りこむ、というイメージ。
・どちらが正しいというよりはどちらもやった方がいいが正解なんだけど、限られたリソースでやるのであればエンゲージ向けのコンテンツを作ってブースト時に広告で流入を獲得する、というのがよさそう
5.マーケティングチームの体制
・デジタルマーケター、UI/UXデザイナー、コンテンツクリエイターは社内外問わず人材確保しておいた方が良い
・よほどのセンスを持つ人でない限り網羅的にコンテンツの統一性を持たせるのは難しいから
・あと、広告宣伝費の最適配分と効率化へのディレクションが勝負の分かれ目になる
・ただ、これ全部やろうとすると組織設計や評価制度などを整えなければいけないので相当大変、でもやった方がいい
結婚式
1.挙式、披露宴
・少人数化と70名~80名規模の二極化していると聞くが、エリアによってけっこう違うのでどうなんだろ?
・ウェブ招待状はかなり広まった感があり、むしろこっちが普通になりそう。ウェブご祝儀ももう少しでそうなっていきそう。
・エビデンスのない感覚なんですが、ホテルウェディングは増えている気がする。どうせやるならちゃんとやろ→ホテル、どうせやるなら自分たちらしくやろ→オーダーメイド系プロデュース、って感じで特徴のないゲストハウスがどっちつかずで苦戦してる。
2.リゾートウェディング
・海外は厳しい、ほんとに厳しいと思う。コロナはもう理由ではないが、物価高と円安の影響が大きすぎる。
・沖縄の人気はまだ伸びていそう、アジア圏からの沖縄来訪者も多いとは聞く、噂レベルだけど…。
・その他、軽井沢、熱海、鎌倉、千葉などの関東近郊のリゾート地も人気伸びていそう、フリープランナーがプロデュースしている
3.フォトウェディング
・写真だけを撮る/結婚式もするけど前撮りもする、という両方を含めてフォトウェディングをする人は増えた。まだ増えそう
・フォトグラファーを選ぶ、ドレスを選ぶ、ロケーションを選ぶ、価格で選ぶ、おおよそこれが選択軸かな
・個人でやっている人も増えたので、差別化というか特徴を際立たせることが重要になりそう
4.その他
・インバウンドはめっちゃ増えてると聞く
・海外在住の日本人カップル、または日本人×外国人カップルの日本式結婚式への違和感からのフリープランナーやプロデュースへの問合せは前年より増えていてる(ちなみにウェディングに限らず訪日外国人は超増加、夜の渋谷とか外国人だらけよ)
その他
1.現場オペレーション
・TAIANのリリースをよく見ているからかもしれないけど、システム導入してる会社は増えた気がする
・自社社員プランナーのみが使うことを前提にシステム化するのか、外部プランナーも入る前提でシステム化するのかは大きな意思決定の分かれ目になりそう
・今が最適とは思わないしまだ効率化の余地もあるけど、前に比べると前に進み始めているとは思う
2.フリーランス
・フリーランスになる人は職種問わずかなり増えた、これはフリーランスになっている人が増えて不安が減ったからというのも一因
・ただ、今はまだ需給バランスが取れているものの、2024年にはフリーランス人材側が供給過剰になりそうなので、独立したけど稼げない人が増えそう
・ブライダル職種で独立するなら顧客に選ばれるか事業者に選ばれるか、どちらかがないときつい
2023年のブライダル業界の振り返り総論
- 集客と営業の業界ルールはもう変わったと思う、前と同じことやっても成果は出ない
- 現場オペレーションは変化し始めたくらいのフェーズだと思う、あと3年くらいたつと変わっていそう
- 働き方が多様化して社員か独立か雇用か業務委託かなどの選択肢が増えた分、自分で考えて決めなければいけないことが増えた
- 結婚式需要は今後緩やかにしかし明らかに減っていくが、インバウンドとこれから生まれる(かもしれない)新しいスタイルはチャンスがある
2024年のブライダル業界予想
かなり厳しいマーケット状況
Googleで「2023年 婚姻組数」で検索してみたら、AIが以下の回答。
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2023年上半期の婚姻件数は24万6,332組で、2022年同期比で1万9,261組減、2021年同期比では1万9,018組減でした。
2023年の年間婚姻数は46万8,000組と予測されており、1917年以来106年ぶりの低水準となります。この婚姻には再婚も含まれているため、初婚数はもっと少ないだろうとされています。
2023年4月の「人口動態統計速報」によると、婚姻数は3万2,095組となり、前年同月比2,441組(8.2%)増加しました。しかし、1~4月までの累計では16万6,947組で前年同期を1万9,795組(10.6%)も下回っています。
2023年の出生数は72万6千人と推計されており、2022年に初めて「80万人割れ」を記録した年を更新する見通しです。
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これはやばい。
- 2019年の婚姻組数は約60万組、2023年は46万組
- 披露宴実施率は50%程度なので
- 2019年30万組→2023年23万組、-7万組。
- これは1式場当たり年間施行組数を約200と仮定すると、4年で350式場分の結婚式が消滅したのと同義
- そして2024年以降も減少する見通し(減少幅は不明)
「4年で-7万組」をわかりやすく数だけで考えると、毎年T&Gがなくなっていく程のスピードで結婚式が減ってますよって感じです。いかなる規模の会社やサービスであってももうこのマーケット推移の影響を無視できるものではなく、この前提で事業戦略を練っていかなければいけません。
ブライダルマーケットをもう少し詳しく考えてみる
先ほどはあくまで全体像なので、婚姻組数減少が要素別にどのように影響してくるかについてもう少し詳しく考えてみます。
●エリア別
東名阪などの大都市圏と比較すると、地方の方が減少スピードは早いでしょう。これは年齢別の人口流入/流出のデータを見ても明らかです。なので地方式場の方がマーケット縮小を早く実感する(実感させられる)はずです。
●式場人気別、規模別
エリア内の式場の集客数が一様に減衰していくことは考えにくく、人気の低い会場やサービスの方が減少幅の影響は大きそうです。また、2月にはゼクシィ改変も予定されており資本力のある企業の方が有利になりそう。
●サービス別
挙式披露宴を主に扱う結婚式場は市場縮小の影響をダイレクトに受けますが、フォトウェディングとインバウンドは伸びるでしょう。フリーランスやプロデュース希望の方も比率は増えそうですけど絶対数として増加を実感できるほどではなさそう。
●その他
- メディア:ゼクシィ改変の影響がどう出るかはふたを開けてみないとわからんです。ただ、多少の影響はあっても大勢は変わらなそう。
- 人材:人材不足のピークは過ぎて一定落ち着きそう、ただ稼いでいる人とそうじゃない人の格差はかなり大きくなりそう。
- 環境:DXは、、、どうかなぁ。進むとは思うけど、社会全般の進化スピードの方が速そう。
ざっくりと一言でまとめると、「想像以上のスピードで結婚式需要が減ってるから、同じことやってるだけだとあと数年でほとんどの企業は立ち行かなると思うよ」っていうのが予想です。2030年の業界勢力図は明らかに今とは違うものになるでしょうね。
それをリアルに実感する(せざるを得ない)1年になるんじゃないかなと。
2024年は何をしたらよいのか?
僭越ですが、こんなことをしたらいいんじゃないかな、もし自分がその立場だったらこうするだろうなっていうのを書きます。
●結婚式場(大手)
プロデュースブランドを立ち上げてオーガニックコンテンツ発信にフルベットしますね。もう手遅れかもしれないけど、それでもやった方がいいと考える理由は以下の通り。
- 現場社員のキャリアパスの多様性を作ることでの採用力強化と定着率の向上狙い
- 顧客との接点を広げることでの集客増化狙い
- SNSが浸透したのでメディア依存から脱却しやすい環境を最大限生かす
●結婚式場(中小)
非ブライダル企業との連携を模索しますね。あとは個人が前に出るSNS発信の強化。
- よほどブランドが確立されていない限り、人気店であってもあと数年でマーケットとの戦いになる(≠競合との戦い)
- なので個人が前に出て「この人に会いたいから」集客ができるところは生き残りやすいと思う(それでも時間稼ぎではあるが…)
- ブライダル単体で何とかするのは相当厳しいので、その間に結婚式以外のマネタイズの模索を地域との連携に求める
●フリープランナー、プロデュース
- 地方で地元に根付いて活動する方:発信コンテンツの物量で押し切って認知獲得に全振りする。数が少ないので存在を知られればまだ勝てる
- 全国対象や都市圏で活動する方:プランニング、プロセス、デザイン、なんでもいいので独自性を作ってそこに全振りした発信をする。数が多いので理由がない選ばれないし知られないと検討の土台に乗らない。
●フォトウェディング事業者
たぶん式場がゼンツして踏み込んでくると思うんですよね。前撮りした人に会食とか挙式を売ることでのアップセル狙いで。
- 安さ以外の独自性(ロケーション、ドレス、フォトグラファー、レタッチ)をとにかく作る
- それを含めたコンセプトとしてまとめる、設計する
- Instagramのフィード投稿だけだと差別化はもう難しいので、動画コンテンツでどう発信できるかを考える、やってみる、結果が出るまで続ける
- 大手は資本力で押し切ることも戦術と言えば戦術でできるが、企業体力が続くかどうか…。
●メディア
※これは願望
- 「式場だけを紹介する」っていう状態から拡張してほしいです。
- 式場側の運用工数を下げる工夫をお願いしたいです。
- うちのメディアから来館予約したら○○万円のギフト券プレゼント!っていうのを即刻止めてほしいです。マジで無駄。
●ドレス
自力集客ルートの構築にかなりのウェイトを割くと思います。
- ドレスコンテンツは今でも強く、発信でフォロワーを獲得できるポテンシャルは高い
- 自力で集客できると「このドレスを着られる式場はどこか?」という視点で式場送客できるので衣裳売上を自力で確保できる
- 上記に代表されるようなビジネスモデルの転換は模索するし、できることはどんどん実行する
ブライダル業界の振り返りと予想のまとめ
マーケット縮小の影響を実感せざるを得ない1年になるとは思いますが、その一方でできることややれることは増えているので、いかに早く取り組み始めて結果が出るまで続けられるかがキーになりそうです。これまでと同じことを精度高くやるのだけでは限界がありますね。
ということで今年もよろしくお願いします。