更新日 2021年08月31日

【ブライダルビシネス】結婚式場の予算計画の作り方(予算フォーマット解説)

0043_【ブライダルビシネス】結婚式場の予算計画の作り方

アナロジーの市川(@analogy_ichitk)です。

結婚式場の経営者や責任者、経営企画部門の担当者は毎年式場の予算を作っていると思いますが、細かな数字を調整しなければいけないので意外と大変な業務です。

精度高く予算を策定するためには基本的なビジネス構造の理解と作り方を知っておくことが必要です、今回の記事では具体的な予算フォーマットを作りながら、結婚式場の予算を作るときのポイントについてまとめてみます(対象は売上までです)。

 

精度高く結婚式場予算を作ることの重要性

43_精度高く結婚式場予算を作ることの重要性

予算とは一定の目的のために立てた計画なことで、目標とは別のものです。正確な予算を策定できると次のようなメリットがあります。

  • 業績予測を精度高く行えるので、利益コントロールをしやすい
  • 投資の意思決定のスピードが上がる
  • 予算の見直しにかかる工数を削減できる
  • 採用を計画通りに進めることができる
  • 借り入れの財務施策を精度高く実行できる
  • 社員の評価を精度高くに行うことができる

当該年度内にどのような売上や利益になるかの先が見えていると、主に投資や採用の意思決定スピードを格段に上げることができるだけでなく、予算見直し工数も削減できるなどたくさんのメリットがあります。

予算策定は事業運営において非常に重要なタスクであり、予算の出来次第で事業運営をスムーズに行えるかが決まってくると言っても過言ではないでしょう。

 

ブライダルビジネスの特徴

具体的な予算作成方法に入る前に、少しだけブライダル業界の特徴についても触れておきます。

43_ブライダルビジネスの特徴

マーケットの極端な変動が起きにくい

ブライダル業界の市場規模は年々縮小しており、この傾向は今後も続くと予想されている一方、ゲームアプリやIT系のサービスと比べると、極端な市場変動は少なく景気変動にも強い産業であると言えます。※2020年~2021年現在も続くパンデミックでの開催不可期間は別。

そのためある程度市場からの推移が予測しやすいので、前年実績をベースに予算作りを始めても大きくずれにくいのが特徴の1つです。

売上計上が1顧客につき一度きり、かつリピートがない

結婚式は基本的に一度なので、リピートが発生しません。また、支払いのタイミングが申込時、半金、残金、当日と別れていたとしても、基本的に売上を計上するタイミングは施行日で一括計上なので、月会費や月額課金など継続率を考慮した考え方でもありません

そういった意味ではKPIが比較的シンプルなビジネスモデルなので、一度しっかりと土台を固めてしまえば繰り返しフォーマットを使うことができるのも特徴です。

契約から売上計上までの期間が長い

結婚式は申し込み(=契約)から売上計上(=施行)までかなり期間が長いです。平均で半年~8か月程度で、長いと1年以上という方もいるでしょう。

そうすると、申し込みは今期だが売上計上は来期、または申し込みは前期だったが売上計上は今期、ということもよく起こります。そのため、時間のズレをきちんと意識して予算を作成することが重要になります。

 

結婚式場運営のKPIツリーの整理

もう1つ、結婚式場ビジネスのKPIロジックも整理しておきます。

43_結婚式場経営のKPI 43_結婚式場経営のKPIツリー

上の図が結婚式場のオペレーションに沿って設定するKPI、下の図はそのKPIの関係性をツリー上に表したものです。

  • 売上=施行組数×組単価
  • 施行組数=成約数×(1-成約キャンセル率)
  • 成約数=来館数×成約率
  • 来館数=来館予約数×来館率
  • 来館予約数=問合せ数×来館予約率
  • 問合せ数=広告宣伝費×CPA
  • 単価=値引き前単価-値引き

実際の作成では、これらのKPIをどのように数値に設定して最終的にいくらの売上を作るのかを考えていきます。

 

結婚式場ビジネスの特徴を踏まえた売上予算フォーマットをつくってみよう

今回はエクセルで予算表フォーマットを作りながら進めていきますので、もし興味があれば記事を参考に作ってみてください。なお、予算作成の大まかな流れは、ロジックに基づくフォーマットの作成→具体的な数値のシミュレート、となりますので、それに沿って書いていきます。

予算フォーマットをつくってみよう①(来館予約~成約)

毎月の成約数の数値を出すところまでのフォーマットを作ります。

43_予算フォーマットをつくってみよう①(来館予約~成約)

まず枠組みですが、左列にKPI項目、上段の行に月を入れています。それぞれのKPIの欄に入力している数値は以下の通りです。

  • 前年来館予約数:前年の来館予約獲得実績
  • 変化予測:市場の縮小度合いの変化、または前年と広告出稿を変更する場合の予測数値
  • トピック:変化予測の根拠メモ
  • 来館予約獲得数=前年来館予約数×(1-変化予測)
  • 来館率:前年実績をベースに今期で予測するKPI
  • 来館数=来館予約獲得数×来館率
  • 成約率:前年実績をベースに今期で予測するKPI
  • 成約数=来館数×成約率

予算フォーマットをつくってみよう②(成約~施行組数)

次に、この成約数が何月の施行になるのかの部分です。

43_予算フォーマットをつくってみよう②(成約~施行)

一番左の列に成約月、次に成約組数、上段の行に施行月を入れています。それぞれの枠に入力している数値は以下の通りです。

  • ①当期開始時点の成約済み組数(水色セル):2019年4月開始時点で成約済みの組数を入力
  • 2019円4月~2020年3月までの受注予測(白色セル):毎月の成約組数を施行組数ごとに振り分けた数値を入力(ロジックは後述)
  • ②当期中の成約予定の組数(薄緑セル):2019円4月~2020年3月までの施行月ごとの成約組数の合計
  • ③当期の施行組数合計(①+②)(緑色セル):当期開始時点の組数と当期中に成約予定の組数の合計

上記の表はブライダル業界ではよく用いられていますね。

この辺りの詳しい内容について興味がある方は次の記事で解説していますのでよければ合わせてお読みください。

結婚式場で精度の高い業績予測するための考え方とそのメリット

さて、月別の施行組数を計算するには、成約月ごとの施行月の分布割合を先に計算しておく必要があります。基本的に過去実績から分布を計算すれば大きくずれることはないと思います。

43_成約月別の施行付き分布

エクセル上では、この割合数値と毎月の成約目標数を乗じて、施行月別の組数を計算しています。手入力で組数を入れているケースもあるようですが、手計算でやるには結構考えなければいけないことが多いので、機械的に計算式で組んでしまったほうがいいと思います。

ここまでできると、当期内の成約組数と、その成約組数を達成した場合の月別の施行組数まで出すことができます。続いて、これを売上の目標につなげていきます。

予算フォーマットをつくってみよう③(施行組数~売上)

最後に、売上予測を計算します。

43_予算フォーマットをつくってみよう③(施行組数~売上)

同じく枠組みと項目からです。左列にKPI項目、上段の行に月を入れています。それぞれのKPIの欄に入力している数値は以下の通りです。

  • 申込平均人数:過去実績または既に成約済みの施行データをもとに算出
  • 値引き前組単価:申込条件やアイテムごとの平均単価をもとに一定のロジックに基づいて算出した予測単価を入力
  • 平均値引額:過去実績または既に成約済みの施行データをもとに算出
  • 組単価=値引き前単価-平均値引額
  • 施行組数:先ほどの階段表から数式でつなぐ

値引き前組単価を計算するロジックについては、以下の記事で詳しく書いてありますので参考にご覧ください。

打合せ担当のウェディングプランナーの評価基準に業績予測ロジックを応用してみよう!

ここまでのエクセルの全体像はこんな感じです。

43_結婚式場の予算フォーマット

 

予算フォーマットを使って売上予算をシミュレートしてみよう

フォーマットが出来上がったら、次は具体的な数値を決めていく段階に入ります。今回ご紹介したフォーマットを用いて予算作成をした場合、シミュレートをする上で調整可能なKPIは以下の通りです。

  • 変化予測:市場のシュリンク度合いの変化、または前年と出稿を変更する場合の予測数値
  • 来館率:前年実績をベースに今期で予測するKPI
  • 成約率:前年実績をベースに今期で予測するKPI
  • 2019円4月~2020年3月までの受注予測:毎月の成約組数を施行組数ごとに振り分けた数値を入力
  • 申込平均人数:過去実績または既に成約済みの施行データをもとに算出
  • 平均値引額:過去実績または既に成約済みの施行データをもとに算出

当期実施する施策がこれらのKPIにどのようなインパクトを与えられるのかを試算し、それぞれのKPIの数値を調整していきます。ちなみに、これらを別シートでKPIテーブルとして切り出し、数式でつないでおくと、シミュレートするときにそのシートだけ調整すればよくなるのでエクセルの使い勝手が格段に上がります。エクセル得意な方はぜひ。

施策とKPI数値のリンク、とは具体的には以下のような例です。

  • 【施策】広告宣伝費を前年比10%増やす→【数値】変化予測を予測値より8%高めに設定する
  • 【施策】来館予約業務を専門コールセンターに委託する→【数値】来館率を2%高めに設定する
  • 【施策】新規時に付与可能な値引き額を前期より10万円増やす→【数値】成約率を1%高めに設定し、平均値引額を10万円増やす(単価が10万円下がる)
  • 【施策】少人数向けプランの告知を前期より強化する→【数値】成約率を1%高めに設定し、申込平均人数を3名減らす(単価が7万円下がる)

他にも考えられる施策は山ほどありますが、達成したい数値にシミュレートを近づけていくときは必ず施策とセットで考えていくといいでしょう。社員をハワイ旅行に連れていくのでモチベーションが上がって成約率が5%アップする、みたいなのでも施策と言えば施策ですが、実現可能性は著しく低いと思います。このように、まずフォーマットをきちんと作成し、そのうえでKPIを調整し、実現可能性と、会社・会場として目指していきたい数字の整合性が取れるラインをシミュレートして予算を作成していくといいと思います。

 

結婚式場の予算の作り方についてまとめ

今回の記事では基本的な事項しか紹介しませんでしたが、実際業務で予算を作成するときはもっと様々なKPIや実績を考慮しながら作ることが多いでしょう。

ただ、ブライダル業界の場合の基本はしっかり押さえておかないと、毎年作るたびにフォーマットも変わってしまい連続性のある分析や施策が打ちにくくなってしまいます。

いきなりしっかりとした予算を組むことは難しいとしても、まずは自分で手を動かして作ってみることが大事です。紹介した方法で作ってみたことをきっかけに、しっかり予算が作れるようになっていただけると嬉しいです。

もし予算策定でお困りのかたは、当社コンサルティングで予算策定支援も行っておりますので、お気軽にお問合せください。

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この記事を書いた人

市川 貴之

株式会社アナロジー代表。「ブライダル3.0を実現する」をミッションに掲げ、ブライダル事業者向けマーケ支援、ブライダル特化の人材紹介、Leju(フリープランナープラットフォーム)を運営しています。マーケティング、事業企画が得意。

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